消化器内科医で、腸内細菌や抗加齢医学に詳しい京都府立医科大学の内藤裕二教授に、腸内細菌について教えてもらう本連載。前回は、私たちの腸内細菌がどこからくるのかについて解説してもらいました。
40兆個もの腸内細菌はお腹の中で、一体なにをしているのでしょう。ヒトと腸内細菌は共生関係を築いており、腸内細菌がいないと困ることがたくさんあります。今回は、ヒトの役に立つ腸内細菌が作る「代謝物」について詳しく聞きました。
腸内細菌は私たちが食べたものをエサに、私たちヒトの腸の中で、いろいろな物質を作っている。よく知られているものでは、乳酸菌が作る乳酸であったり、ビタミンB群やビタミンK、最近アンチエイジング物質として注目のポリアミン、活性型大豆イソフラボンのエクオールも腸内細菌によって作られる。こういった腸内細菌が作る「腸内細菌代謝物」を、ヒトはエネルギー源や生理機能の調節にかかわる刺激物質として利用している。また、腸内細菌が油を代謝してできる抗炎症物質なども、アトピー性皮膚炎などの炎症を防ぐのに役立つのではないかと注目を集めている。ヒトと腸内細菌は共生関係を築いているというわけだ。
その中で「まず知っておくべきは短鎖脂肪酸でしょう」と京都府立医科大学教授の内藤裕二さんはいう。

短鎖脂肪酸は代謝物のメインプレーヤー
短鎖脂肪酸は腸内細菌代謝物のメインプレーヤーともいえる存在だ。健康との関連も深い。主な短鎖脂肪酸は酢酸、プロピオン酸、酪酸の3つで、「それぞれ異なる作用があり、また、それぞれに直接腸内で作用する場合と、体内に吸収されてから受容体を介して発揮する作用がある。この2つの作用はまったく別物。分けて考える必要があります」(内藤さん)。
まず酢酸。お酢の酸味のもととなる成分で、酢酸を作る菌の代表格がビフィズス菌だ。「私たちの研究で、酢酸には腸の上皮粘膜の傷を治す力があると確認されました。つまり、変なものが体内に入らないようにする腸のバリア機能の維持に役立っていると考えられます。また、酢酸が、腸からの有害な菌やウイルスの侵入を阻止するIgA抗体(免疫グロブリンA)の産生を高めるという研究発表が、2021年夏にありました」。腸で作られた酢酸はその大部分が体内に吸収され、体の中では、脂肪を作るための材料になったり、一方で過剰な脂肪をため込まないようにするシグナルとして働くという。
次に酪酸。イチョウの実(ギンナン)のにおいのもととなる成分で、便が臭いのはこの酪酸によるところが大きい。「腸で作られた酪酸の多くは腸管の上皮細胞のエネルギーとして使われ、上皮細胞に酸素を消費させてビフィズス菌など酸素が嫌いな腸内細菌がすみやすい環境を作ります。また、近年、アレルギーや体内の炎症などの“過剰な免疫反応”を抑える制御性T細胞という免疫細胞の働きを活発にする作用があることや、長寿との関連に関する報告が増え、にわかに注目を集めるようになってきました。私たちが行った調査でも、長寿の人が多い京丹後地方に住む高齢者の腸には、酪酸産生菌が多いことがわかっています」(内藤さん)。体内に吸収されると交感神経活動を高めてエネルギー消費を促す作用があることもわかっている。