消化器内科医で、腸内細菌や抗加齢医学に詳しい京都府立医科大学の内藤裕二教授に、腸内細菌について教えていただく本連載。今回のテーマは、「日本人の腸内細菌の特性」について。実は日本人の腸内細菌叢は、世界的に見て非常に特殊なのだそうです。いったいどんな特性があるのでしょうか。そして腸内細菌叢に影響を与える要因とは? 最新研究からわかってきた特性を解説していただきます。
日本人の腸内細菌は非常に特殊だった
腸内細菌叢(フローラ)は人によって異なり、指紋のようにまったく同じ腸内細菌叢を持つ人は存在しないという。「腸内細菌は『生まれたときに母親から子どもに贈られるギフト』ともいわれますが、あくまで母親からもらった腸内細菌はベースでしかありません。その後の環境要因や食事などの影響を受けて個人特有のバランスができ上がります」と京都府立医科大学教授の内藤裕二さんは説明する。
ただし個人差があるといっても大きく分類してみると国ごとにそれぞれ特徴があるようだ。「とくに日本人の腸内細菌叢は独特です」と内藤さんはいう。
2016年に当時早稲田大学に所属していた服部正平さんらの研究チームが、日本人と欧米、中国など11カ国の腸内細菌のゲノムの解析データを発表した(*1)。「この報告によると、日本人の腸内細菌は他の11カ国と大きく異なり、なぜか中国人と米国人の腸内細菌が似ていたそうです」(内藤さん)。


日本人の特徴は、まず炭水化物やアミノ酸を代謝する菌が多いことだという。よく知られる菌でいうとビフィズス菌だ。「ビフィズス菌はお腹にいい菌だといわれていますが、実は欧米の人の腸にはほとんどいません。だからといって欧米人の腸内環境が悪いわけでもなく、ほかに日本人にとってのビフィズス菌のような調整役をする菌が存在します。このビフィズス菌が多いというのは日本人の特徴なのです」(内藤さん)。ほかにも、海苔やワカメに含まれる多糖の分解酵素を持っていたり、酢酸(*2)を作るのに腸内の水素を使ったり……といったほかの国の人には見られない菌の特徴も見られたという。
このように日本人の腸内細菌叢がよその国と大きく異なる背景には遺伝子要因が関係するという。「日本人には、遺伝的に牛乳などに含まれる乳糖を分解する酵素を作れない乳糖不耐症の人が多いのです。分解されないため体内に吸収されないまま大腸に届いた乳糖は、ビフィズス菌のような糖をエサとする菌に消費されます。牛乳をのむとお腹がゴロゴロしたり下痢っぽくなるのも、乳糖が腸に届くことが原因です。日本人は遺伝的にビフィズス菌が増えやすい条件を持っているというわけです」(内藤さん)。