消化器内科医で、腸内細菌や抗加齢医学に詳しい京都府立医科大学の内藤裕二教授に、腸内細菌について教えてもらう本連載。今回のテーマは「腸内細菌と長寿との関係」について。近年、この分野は世界的に研究が進んでいます。自らも日本で長寿と腸内細菌の研究を行う内藤さんに、最新の研究事情、そして食事が腸内細菌と長寿の関係にどう影響するかについて、2回に分けて話を聞きます。
寿命を左右するのは「多様性」と「腸の漏れ」?
医療の進歩や栄養・衛生状態の改善により、人はどんどん長生きになっている。令和、日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性は87.74歳。「中には、健康な状態で100歳を超えるなど、圧倒的に長生きする人も。その違いをもたらす大きな要因に腸内細菌があるのではないかと考えられています」というのは、自身も長寿者の腸内細菌研究に携わる京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤裕二さん。
「今、長寿と関係する腸内細菌の条件はと聞かれたら、世界的な研究で明らかになっているのは、まず菌の種類や数に多様性があること。そしてプロテオバクテリアという種類の菌が少ないことでしょう」(内藤さん)。
長寿と腸内細菌の研究は、欧米では2000年代から盛んに行われており、ここ数年で長期にわたる追跡調査の報告書がいくつか出てきたという。
「中でも興味深いのは、2021年にフィンランドのトゥルク大学が発表した、成人7211人を15年間追跡した調査研究の報告(*1)です。彼らは大腸菌やクレブシエラ菌、サルモネラ菌といった腸内細菌科プロテオバクテリア門の菌が多いと寿命が短くなるという関連性を見い出しました。さらに、腸内細菌のスクリーニングによって、これらの菌の増減から死亡率をはじき出す計算式も開発しています」(内藤さん)。

寿命の長さと特定の菌の多い少ないといった関係を見ているのではなく、プロテオバクテリア門の割合が増えると死亡率がどれくらい上がり、減ると死亡率がどれだけ下がるか、というのを計算式から示すことができるという。
「有用菌といわれる酪酸産生菌やビフィズス菌は偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)と呼ばれる『酸素がある環境では生きられないタイプ』です。一方、プロテオバクテリア門は腸の中では少数派のグループで、『少しくらい酸素があっても大丈夫な通性嫌気性菌(つうせいけんきせいきん)』です。多少酸素があっても大丈夫な菌が増えるということは、腸の中に酸素が漏れている――つまり腸管バリア機能が壊れている可能性が高いということ。このことから腸が弱っていると死亡率が上がるのではと私は推測しています」(内藤さん)