消化器内科医で、腸内細菌や抗加齢医学に詳しい京都府立医科大学の内藤裕二教授に、腸内細菌について教えてもらう本連載。前回に引き続き「腸内細菌と長寿との関係」について話を聞きました。長寿に関わる腸内細菌を作る食事というのはどういうものなのでしょうか。さらに、内藤さんが今取り組んでいる、長寿の人が多い京丹後地域での調査から見えてきた「長寿につながる日本人向けの食事パターン」についても解説してもらいました。
長寿の腸内細菌には食事が重要?
前回は世界の研究からわかってきた長寿と関係する腸内細菌について伺った。では、長寿に関わる腸内細菌を作る食事というのはどういうものなのだろうか。
「腸内細菌と食事に関する研究は、日本より欧米のほうが進んでいて、今のところ長寿や健康、腸内細菌にいい食事というエビデンスが最も多いのは『地中海食』です」と、自身も長寿と食事、腸内細菌の調査に携わる京都府立医科大学教授の内藤裕二さんは言う。
地中海食とは、トマトやオリーブオイル、魚介類などを食べる地中海沿岸地域の伝統的な食事のこと。ヨーロッパの研究グループによって、これまでに肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病の予防・改善や、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防に有用ということが明らかになっている。「これらの健康効果が腸内細菌叢を介してもたらされるものかもしれないという動物試験の報告もあります」(内藤さん)。
その研究とは、サルを同カロリーの「西洋食」と「地中海食」で飼育した場合に腸内細菌がどう変わるかを調べたものだ。ラードや牛脂、バター、コレステロール、砂糖などを大量に使用する食事を「西洋食」、魚油、オリーブオイル、魚粉、バター、野菜ジュースなどを含む食事を「地中海食」とした。一定期間飼育した後に腸内細菌の違いを比較すると、地中海食群では西洋食群に比べて明らかに菌の多様性が高かったという(*1)。

この研究における「西洋食」に近い食事をとっている人が多いのが米国だ。「米国では大腸がんが多いため、がん予防のために何を食べたらいいかという視点から腸内細菌やその代謝物の研究が進められました。
その結果、米国では炎症を防ぐポリフェノールや魚油などの抗酸化成分を多く含む食材など、食事性炎症指数(DII:dietary inflammatory index)の高い『炎症抑制食品』がいいという結論に行きつきました」(内藤さん)。抗酸化成分が腸内の活性酸素などを除去することで腸内細菌バランスが改善し、腸そのものも元気になるという。
「お茶に含まれるカテキンや、ブルーベリーなどに含まれるアントシアニンなどのポリフェノールを多くとると、前回、生活習慣病対策や長寿の研究で注目を集める菌として紹介したアッカーマンシア・ムチニフィラが増えるという研究もあります。ただ、米国風の食生活がベースとなっているせいか、炎症抑制食品の中にはピザやビールなど、医師としては少し疑問に思う食品も含まれています。実際にどれくらい有効なのかは今後の研究に期待するところですね」(内藤さん)。