消化器内科医で、腸内細菌や抗加齢医学に詳しい京都府立医科大学の内藤裕二教授に、腸内細菌について教えていただく本連載。前回に引き続き日本人が死亡数第2位の「大腸がん」について話を伺います。前編では、大腸がんのリスクを上げる食事、下げる食事について紹介しました。大腸がんのリスク低減のカギとなるのが「運動」です。運動による大腸がん抑制と腸内細菌の関係、大腸がんと歯周病菌との関係などについて聞きました。

運動で出るホルモンが大腸がん予防に関与?

日本人のがん死亡数の第2位となっている大腸がん。前編では、国立がん研究センターがまとめた日本人のがんリスク因子の評価から、飲酒、赤肉や加工肉などが大腸がんのリスクと可能性があること、食物繊維や魚由来の不飽和脂肪酸などがリスクを下げる可能性があることを紹介した。
ただし、食物繊維や魚油は、あくまでも大腸がんのリスクを下げる「可能性あり」と評価されたに過ぎない。一方、大腸がんリスクを「ほぼ確実に下げる」とされるのが「運動」だ。消化器内科医で京都府立医科大学教授の内藤裕二さんらの研究チームも運動による大腸がん抑制作用に関する研究を行ってきたという。
「マウスに大腸がん誘発剤を投与すると、すぐに大腸がんができるのですが、同じマウスを運動させると大腸がんの発症が抑制されます。ここに、運動することで骨格筋から分泌されるSPARC(スパーク、Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine)というマイオカイン(筋肉から分泌されるホルモン)が関与することを突き止めました(*1)」
SPARCを作れないマウスでは、運動しても大腸がん抑制作用がなくなることが確認されたという。「SPARCにはがん細胞をアポトーシス(細胞の自殺)させる働きがあります。でも、本当にそれだけで大腸がんを抑制するのかな、と思い、腸内細菌も関与しているのではと考えるようになりました」(内藤さん)。
そこで、運動したマウスの糞便を運動しないマウスに移植してみたところ、糞便移植されたマウスの腸で、運動したマウスの腸内細菌叢に近づくように増減する腸内細菌があることが確認されたという。また、運動したマウスでは、運動しないマウスに比べて糞便中に遊離型の胆汁酸が多く、抱合型の胆汁酸が少ないということも明らかになったという。