がんの告知。そのとき頭をよぎったものは……
自分が進行がんだと知った瞬間、人は何を思うのでしょう?
わたしは真っ先に愛する家族の顔が浮かぶものだとばかり思っていました。ところが実際、真っ先に浮かんだのは「原稿の締め切りが、やばい、ピンチ!」。そして次に浮かんだのは「えー、ぜんぜん旅行とか行けてないしー」でした。我ながら、どうなっとんねん、です。
がんの告知————。
いきなりドラマの1シーン、しかも大ピンチのシーンに放り込まれましたが、主人公としての心の中は、ドラマのようなエモいものではありませんでした。
わたしの仕事はテレビの放送作家です。番組は放送作家ががんになったからといって休止にはなりません。収録が迫る番組の台本を書かねば! あしたナレーターさんがナレーションブースに入る前までにはナレーションを書き上げておかねば! とにかく気になったのは、あの締め切り、この締め切り。因果な商売です。
次に浮かんだのは「旅行に行けてない」こと。別段、旅行好きでもないのに、なぜかこのとき、せっかく地球に生まれてきたのに地球のごく狭い、なんなら家とテレビ局の往復くらいしかしてないことが猛烈に悔やまれました。その後、わたしのがんはすっかり治ったのですが、だからといって積極的に旅行に行くことはありませんでした。あの気持ちはなんだったんだ!
そもそも、自分ががんだと知ったのは出産した時にお世話になった大きな病院。内科の先生の紹介で泌尿器科へ行き、お腹のCTを撮ってもらうと、右の腎臓が大きく腫れていました。「水腎」といって、文字通り腎臓の中にお小水がたまっている状態です。尿管が詰まって、腎臓で作られたお小水が膀胱(ぼうこう)へと流れず、腎臓がはち切れんばかりにパンパンになっていました。割れる寸前の水風船みたいな感じ。大きく腫れた腎臓が周辺を圧迫して痛みが出ていたのです。泌尿器科の先生は「CTには映ってないけど尿管に石が詰まっていると考えられます」と言っていました。とにかく痛い。
婦人科ではベテランのおじいちゃん先生が、会うなり内診を勧めてくれました。が、婦人科の内診が好きな人などいません。いやだ! 絶対いやだ! と思い「こちらの病院で1年ちょっと前に出産したばかりで、中はよーく見ていただいてますから大丈夫です」などと断ったのですが、ベテラン先生も慣れたもので「保険だってきくんだし、さぁさぁ」と半ば強引に内診台へ。見るなりベテラン先生は「ん?」と怪訝(けげん)な顔をして細胞診という検査をしました。
「次は大事なお話をするので、必ず来てください」と言われましたが、このときの私はまだ、子宮筋腫でもあるのかな? くらいの考えでした。次の診察の前、待合室で「今から検査の結果聞くイエイ」とブログに書いていたくらいお気楽でした。それから何カ月もブログを更新できなくなるともまだ知らずに————。
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構成・文/たむらようこ イラスト/八谷 美幸