真夏に相部屋のエアコンを切るくらい追い詰められます

 入院中はとかくナーバスになりがちです。そりゃそうです。死ぬかもしれないんです。小さなことに一喜一憂しました。

 マンガに描いた「蓄尿」もそうです。そもそもなぜ蓄尿という検査をするのかというと、シスプラチンという抗がん剤は副作用として腎臓を傷めることがあるから。悪影響を最小限に抑えるため、たっぷりの水分を点滴し、なるべく飲み物を摂るよう指導も受けます。ちゃんと水分が摂れているか、腎臓が急激に悪化していないかなどをモニタリングするため、1日の尿をすべて袋にためる全量検査が蓄尿です。

 わたしが入院した頃はトイレの個室を出たところに、たくさんの畜尿袋が、並んでぶら下がっていました。嫌でも比較してしまいます。薄い黄色でいかにも健康そうな尿。まだ午後も早いのにたっぷりと出ている尿。ほとんど尿が出ていなかったわたしには、健康そうな人様の尿がまぶしすぎました。「隣の芝生は青い」という言葉がありますが、「隣の尿は黄色い」。

 ナーバスになるのは尿にだけではありません。体が冷えると、がん細胞が活動しやすくなると聞いていたわたしは、少しでも寒いと「死が忍び寄ってくるんじゃないか」と怖くなってしまいました。幸か不幸か、わたしのベッドはエアコンに一番近い場所にあり、土地柄、リモコンの優先権を持っていました。それで真夏の8月だというのに、エアコンのスイッチを……切りました。

 身長161センチなのに、体重35キロまで減っている自分は、代謝が落ちるところまで落ちているせいか、まったく暑さは感じません。しかし同室の他の5人はそうはいかなかったのでしょう。

 30分ほどたつと看護師さんが飛んできて、わたしを説得しました。

「たむらさん、エアコンつけましょうか」
「嫌です」
「他の人が暑いんじゃないかな?」
「どなたか暑いっておっしゃってますか?」
「いや、そうじゃないんだけど」……。

 今、考えれば誰かの通報で看護師さんが説得に来たと分かるのですが、当時は、同室の皆さんの健康を守るためにも冷やしてはいけないという使命感に燃えていました。ついには看護師長さんまでやってきて、「お願い、28度でいいから」と懇願されました。

 わたしは泣きました。泣きながら「死ねって言うんですね。体冷えて死ねってことですね、分かりました」とエアコンをつけて、布団をかぶり、泣きに泣きました。

 患者によってツボは違えど、ナーバスになるのは仕方のないことだと思います。そんな患者たちに寄り添ってくれる看護師さんたちには、今も心から感謝しています。

 さてここで出てくるミスター伊藤は、主に腎機能を診てくれる泌尿器科の医師です。医師らしくない言動が続きますが、マンガ用に盛っているわけではなく、当時のブログを基に書き起こしたものなので、そのあたりのリアル感もぜひお楽しみください。


 Webでの連載は今回が最終回ですが、物語はまだまだ続きます。

 『マンガ がんで死にかけて12年、元気に働いてます』として書籍化されました。治療のこと、家族のこと、仕事のこと、病気が治るためにやってみたこと、失敗したこと、そしてミスター伊藤の活躍も……、子宮頸(けい)がんと向き合った経験を余すところなくつづっています。

 病気と向き合っている人、その家族、そしてがんと無縁のあなたのために書いた、笑えて泣けるコミックエッセーです。どうぞ手に取って、物語の続きを見届けてください。

構成・文/たむらようこ イラスト/八谷 美幸

この連載が書籍になりました!
日経xwomanの大人気コミック連載が、本になりました。がんの治療はその後どうなったの? 仕事との両立はどうしているの? ふぅちゃんのその後は? ミスター伊藤はどんな風にヒーローになる? たむらさんが体のためにしたことは……? 泣いて、笑って、心がゆさぶられるコミックエッセイ。当事者の方にも、家族や友人や同僚の方にも、小さな子を持つママにも、そしてがんと無縁の人生を送りたいすべての方にも、おすすめです。

『マンガ がんで死にかけて12年、元気に働いてます』(たむらようこ・著、八谷美幸・マンガ、日経BP/1350円、税別)
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