人は何のために働くのか――。食べるのが精いっぱいだった時代にそれは「お金」だっただろう。そして飢えが満たされたあとは「名誉」、つまり出世を欲するのかもしれない。それでは今の若手は何を「報酬」として求めているのか。「非金銭的な報酬」について考えよう。
第2回「あなたの部下が『仕事ができない理由』は2つしかない」と第3回「部下の成功体験を定着させる『言葉がけ』のポイント」は、「仕事ができない部下」に必要な知識と技術を具体的に示して、成果を上げるために「望ましい行動」を取れるように導く方法を説明しました。部下の「望ましい行動」を増やしていくには、部下が自身の仕事に対して、積極的な気持ちを持てるような環境をつくっていくことも重要です。
そこで、ぜひ活用していただきたいのが、「トータル・リワード」と呼ばれる報酬の考え方です。米国の、報酬に関する教育機関「ワールド・アット・ワーク」が提唱している概念で、心理的安全性を組織に作るときの、具体的な手法の一つとして考え出されたものです。
「報酬」というと、給与や賞与といった金銭的な報酬や、昇格・昇進といった人事面での報酬を思い浮かべる人が多いと思いますが、このトータル・リワードにはお金以外の報酬(非金銭的報酬)も含まれます。金銭では得ることのできない「報われ感」や「働きがい」を報酬として提供することで、部下のモチベーションを高めて「望ましい行動」を繰り返すように強化していくのが狙いです。
部下一人ひとりの「働く理由」を知ろう
トータル・リワードを活用するには、部下一人ひとりの「働く理由」を知る必要があります。それぞれが何のために仕事をしているのか、仕事を通じて何を得たいと思っているのか――、つまり「働く動機」を見極めることが大切だからです。

当然のことながら、働く理由は一人ひとり違います。特に40~50代以上の管理職と、20代の若手社員とでは、仕事に対する価値観が大きく違います。管理職を務めているような人たちは、昇給や出世が働くモチベーションになっていたり、仕事そのものが生きがいになっていたりする人も多いでしょう。
一方で今の若手社員には、仕事よりもプライベートを充実させたいと考える人が多い。プライベートを充実させるには一定のお金が必要で、そのために働いている人も少なくありません。ですから、「面倒で時間も取られてしまいそうなマネジメント職には、就きたくない」といった本音も、少なからず聞こえてきます。
新型コロナウイルス禍以降、リモートワークが広がったことでライフスタイルが一変した今は、特にプライベートの時間を重視する人が増えています。いずれコロナが収束して以前のような勤務スタイルに戻ったとしても、その傾向は変わらないでしょう。そうした状況で、例えば、親睦を深めようと飲み会を実施するなどしても、逆効果になるだけです。
仕事や働くことに対して古い価値観を引きずったままでいると、部下に対しても同じ価値観を押しつけてしまい、パワハラになってしまうことだってあり得ます。注意すると同時に、上司自身が価値観をアップデートすることが必要ですね。