トータル・リワードの「A to F」とは

 トータル・リワードがこれまでの報酬の考え方と根本的に異なるのは、結果に対して報酬を与える成果主義的なものではないという点です。私が専門とする行動科学マネジメントでは、成果につながる「行動そのもの」を評価し、その行動に対して非金銭的報酬を与えます。非金銭的報酬には、次の「A to F」があります。

トータル・リワードの「A to F」とは?
トータル・リワードの「A to F」とは?

Acknowledgement 感謝と認知
Balance of work / life 仕事と私生活の両立
Culture 企業文化や組織の体質
Development 成長機会の提供
Environment 労働環境の整備
Frame 具体的行動の明確な指示

 これらAからFの6つの要素は「お金以外」の報酬と快適さを表しています。この中でも特に重要なのが、Aの「感謝と認知」と、Fの「具体的行動の明確な指示」です。

 Fの「具体的行動の明確な指示」については、前回お話しした通り、成果を上げるために部下が取るべき「望ましい行動」を一つひとつ分解して言語化し、チェックリストも活用して具体的に指示を出す。確実にできるように手順を踏んで、行動を強化していきます。

 そして、部下の「望ましい行動」を強化していくときに大切になってくるのが、Aの「感謝と認知」です。これは別名、「承認のマネジメント」ともいいます。「承認」という言葉を使うと難しそうに聞こえるかもしれませんが、要は部下が成果につながる行動を取ったときに「すぐ対応してくれて助かったよ」と感謝したり、「期限までに目標が達成できたね」などと褒めたりすることです。

 私が講師を務める日経ビジネスの「課長塾」などのセミナーやワークショップでは、「承認のマネジメント」が苦手だという人も多く見受けられます。そういう人の話をよく聞いてみると、部下の人間性まで褒めなくてはいけないと思っていることが多いようです。