昆虫を使ったバイオマス技術のムスカのCEOを経て、2021年7月より、宇宙開発事業を手掛けるSPACE WALKERでサステナブル推進・広報の顧問、Webシステム受託開発を手掛けるスパイスファクトリーで取締役CSO(最高サステナビリティ責任者)と、2つの役職に同時に就任した流郷綾乃さん。特色の違う2社でサステナブル事業に関わることになった背景や、ムスカCEO時代からESG経営やSDGsへ資する事業に取り組む中で感じた、企業がサステナブル経営をするために必要なことを聞きました。

意外と知られていない宇宙開発における環境問題

日経xwoman編集部(以下、――) 2021年7月より、2社でサステナブル事業の顧問と責任者に就任しましたが、それぞれどのような業務を担当しているのでしょうか。

流郷綾乃(以下、流郷) SPACE WALKERでは持続可能な宇宙開発のための私たちが取り組んでいる「ECO ROCKET(エコロケット)」の社外発信を、スパイスファクトリーでは主に、社内で立ち上げた「SDGs委員会」の運営責任者を任されています。

―― 同じ「サステナブル推進」に携わるポジションでも、業務内容は全く異なるんですね。SPACE WALKERでは、どのような業務に取り組んでいるのでしょうか。

流郷 事業内容や企業規模によって、サステナブル経営はさまざまです。SPACE WALKERではまず、世の中にあまり知られていない宇宙開発における環境問題や、それを解決するための指針「サステナブル宇宙開発宣言」を発信しています。

 宇宙事業に関わって、宇宙に向かって打ち上げられたロケットがほぼ使い捨てで海に落とされていることを初めて知りました。落とされたロケットに残っている燃料には化石燃料や強い毒性を持つものが使用されていることも多いため、燃料を使い切らないまま海洋投棄をすると、水質汚染にもつながります。

 5Gを活用した自動運転やIoT端末が広がる中で、人工衛星データやGPSとの連動がより求められるようになります。必然的に人工衛星を宇宙へ飛ばすためのロケットも増えます。使い捨てのものを使用し続けて、ロケットの一部を海や宇宙空間に投棄していたら、環境問題は深刻になっていきますよね。

 一方でSPACE WALKERはパートナー企業と連携し、飛行機のように翼がついていて何度も使える有翼式再使用型ロケットを開発中です。さらに、牛の排せつ物などから出るメタンガスを活用したバイオ燃料の使用を検討するなど、環境問題に配慮した宇宙開発を行っています。

 そして「再使用」「クリーン燃料」の2つの要件を満たす環境負荷の低いロケットを「ECO ROCKET」と定義づけて、今後の宇宙開発に必要な宇宙輸送システムのあり方を提唱しています。

SPACE WALKERが開発しているECO ROCKET「有翼式再使用型ロケット」のイメージ画像(提供/SPACE WALKER)
SPACE WALKERが開発しているECO ROCKET「有翼式再使用型ロケット」のイメージ画像(提供/SPACE WALKER)

―― 宇宙開発が環境問題に影響していることは全く知りませんでした。

流郷 昨今、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏など世界的に著名な経営者が宇宙開発に乗り出し、民間人によるロケット打ち上げの成功が話題に上がっていますよね。一方で、宇宙開発が環境に負荷をかけていることも課題になっています。私はECO ROCKETの開発をもっと世の中に広め、「宇宙開発において持続可能な開発が当たり前になる時代」をつくる一助を担えたらと思っています。