難燃剤、可塑剤……プラスチックが運ぶ有害な物質

中嶋 私たちが普段、口にする魚介類も少量のプラスチックは含んでいることがあるでしょう。ただ、マイクロプラスチックのような微細なものなので気づかないだけです。また、プラスチックがたまるのは魚の胃腸です。スーパーなどで切り身を買う分には、目にすることもないでしょう。

―― 胃腸にあるプラを取り除いていれば、問題はないのでしょうか?

中嶋 そうとも言えません。人への健康被害として懸念されるのは、プラスチックそのものではなく、プラスチックにさまざまな機能を持たせるために練り込まれた化学物質です。例えば、難燃剤。ポリエステルやナイロンといった化学繊維(プラスチック)から作られているカーテンやじゅうたんには、延焼防止のためにほぼ練り込まれています。他にも、プラスチックを軟らかくし、加工しやすくするための可塑剤があります。

 魚がさまざまな化学物質を含んだプラスチックを飲み込む。胃腸の中でプラスチックからそういった化学物質が染み出し、脂肪や魚肉に染み込む。それを私たち人間が口にし、人間が取り込むべきでない化学物質が体内に蓄積される……そういったプロセスが危惧されるのです。

 現状では「しらすを食べ続けたら健康被害が出た」などの報告はなく、心配する必要はないです。一方、「妊婦は水銀を避けるためまぐろを食べるな」と言われるように、今後、「妊婦は有害なプラスチック由来の化学物質を避けるため(食物網の上位にいる)魚類は食べるな」と特に健康に気を使う必要がある人に対しては、新しい指針ができる可能性はあります。

プラごみは漁業、海運業に壊滅的なダメージを与えるかもしれない、写真はイメージ
プラごみは漁業、海運業に壊滅的なダメージを与えるかもしれない、写真はイメージ

── 私たちの社会にはどんな影響がありますか?

中嶋 2020年のアジア太平洋経済協力(APEC)の報告によれば、海洋プラが観光業、漁業、海運業などの海洋経済に与える損失は、2015年にアジア太平洋地域だけでも108億ドルでした。

 分かりやすい例で言えば、ビーチに打ち上げられる大量のプラごみでしょう。海外の著名なビーチがプラごみであふれかえっている写真はインターネットで検索すればすぐに目にすることができます。観光業に頼る経済は壊滅的なダメージを受けています。日本でも都市部に近い房総半島や相模湾などのビーチに大量のプラごみがあふれれば、観光客は来なくなり、地元の飲食店や宿泊施設はダメージを受けますよね。

── 私たち個人にできることはありますか?