海洋に流出する大量のプラスチック。死んだ海鳥や海亀の胃袋からプラスチックごみが大量にあふれる画像を一度は見たことがあるのではないでしょうか。生態系への影響やプラスチックを飲み込んだ魚などの水産物を食料にする、人間への影響も懸念されます。ビジネスの世界では、SDGsの観点からプラごみの排出を減らす取り組みが広がります。そんな中で、私たち個人にもできることはないでしょうか。国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)で深海の海洋プラスチック調査に従事する中嶋亮太さんに問題の概要と私たち個々人ができることを聞きました。
日経xwoman(以下、――) 海に漂う海洋プラスチックの問題は年々、深刻化しているように思えます。現状はどのようになっているのでしょうか。
中嶋亮太さん(以下、敬称略) 世界中の海に約1億5000万トン以上のプラスチックごみがあると言われています。海面に浮かんでいたり、海中を漂ったり、海底に沈んでいたり、レジ袋のまま残っていたり、非常に細かなマイクロプラスチックと呼ばれる形状になっていたり、とその形態はさまざまです。
量について言えば、東京スカイツリー4166個と同じ重さと計算できます(タワー鉄骨総重量約3万6000トン)。また、毎年の海洋へのプラスチック流入量は、1000万トンと推測されています。トレンドは悪化の一途です。2050年までに海洋のプラスチックの重量が海洋の魚の重量を超えるとの報告もあります。
―― すさまじい量がすでに海に流れているのですね。
中嶋 一方、海洋に浮かぶプラごみで、把握可能な総量は数十万トンにすぎません。残りの大部分はどこにいったのかよく分かっていません。大半が深海などの海底に沈んでいると思われます。そのため、どこに、どの程度の量が堆積しており、どのような影響が生態系に出ているのかが把握しにくいのが現状です。我々が目にする鯨や海鳥の死骸という現象は、プラごみが生態系に与える害の氷山の一角であることは間違いないです。
JAMSTECは海洋プラごみの実態を把握すべく力を入れてきました。私も加わった2019年の調査では、房総半島から500kmほどの沖合の深海でプラスチックごみの調査を実施しました。見つかったごみの8割がレジ袋や食品包装などの「使い捨てプラスチック」です。1984年製造と記された35年以上前(採集時)の食品包装は印刷が鮮明でした。深海は暗闇で水温が低いため、紫外線や熱といったプラスチックを劣化させる要因がないためだと思います。つまり、深海底に到達したプラスチックは、少なくとも100年以上、極めて長い時間残り続けると考えられます。
―― 私たちへの影響はどのようなものがありますか?