SNSの発達と、社会のポリティカル・コレクトネス意識の高まりにより、「炎上」が極めて頻繁に起きる時代になりました。企業の広告やSNS投稿も頻繁に「燃えて」おり、普通の会社員にとっても、自分が関わる商品やキャンペーンが炎上し、巻き込まれるリスクは否定できません。一体どんな広告や発信に炎上リスクがあるのか、どうリスクを避けるのか、「ネット炎上対策専門家」として知られるおおつねまさふみさんに聞きました。
「5、6年前なら特に問題視されていなかったような広告や発信内容でも、今だと炎上してしまうことが少なくありません」。そう語るのは、企業の炎上対策などを助言するMiTERUの代表取締役、おおつねまさふみさん。黎明期から現在のインターネット事情に詳しく、「ネット炎上対策専門家」の肩書でも活動している。
「近年、センシティブになった代表的な分野がジェンダー関連です。例えば、バラエティ番組のトークの中で『美女は得だ』といった発言を気楽にしただけでも、ルッキズム(容姿による差別)の文脈で批判される。
また、プロモーションにマンガやアニメを使うケースが増えていますが、描かれた女性の姿が『性的』だと批判されることも多い。必ずしも『誰が見てもアウト』な表現内容でなくても、強い不快感を抱く少数の人たちから長期間批判され続けるケースもあり、扱いが難しい分野といえます」

さて、ここまで読んで、炎上広告は「おっさん担当者の問題」だと思った人はいないだろうか。女性への差別意識があるから、価値観が古いからそうなるのだと……。
しかし、実際の炎上事例の中には、差別などの明らかにアウトな内容を含まなかったものも多い。そして、ジェンダー関連で燃えた広告の担当者が女性だったというケースも少なくないのだ。「女性担当だからこそ炎上しやすい、といえる要素もあります」とおおつねさん。
近年の具体的なケースを基に、どんなときに思わぬ炎上が起きるのか、どのようにすれば回避できるのか、見ていこう。
「人間のヒエラルキー」に触れると炎上しやすい
そもそも、明らかな差別などを含まないのに炎上する話題とはどういうものだろうか。
「一般論として、人間のヒエラルキーに関わる、一次元の判断軸を含む話題が燃えやすいといえます。人間同士でどちらが優れている、劣っている、という構図になり、『上位が下位を見下す』内容だと思われると問題になる」
差別を含む発信は、炎上を招く要因という視点で見れば、人種や国籍、性別などの間に不当な優劣を付けてしまう点が問題だといえるわけだ。しかしこうした明らかな差別以外にも、「上位が下位を見下す」構図は生まれ得る。
「代表的なのは、年収や学歴に関する話題です。高所得者、高学歴者がそうでない人を見下していると思われれば反発を招く。また、女性の生き方に言及する話題も典型的です。子どもを持つか持たないか、仕事を続けるか辞めるか、といったライフスタイルの選択肢について、一方が他方を下に見ていると受け取られてしまうと可燃性が上がる。
こういった話題を広告などで発信する際には、訴求する対象と同じ目線に立ち、『下からへりくだる』表現を心がけることが炎上リスクを減らす基本となります」
とはいえ、「同じ目線」なら問題がないわけではないのが難しいところだという。おおつねさんが注目するのは、実際の企業で起きたある炎上事例だ。