コロナ下で企業はテレワークや時差通勤など、さまざまな新しいワークスタイルを実践している。しかしテレワーク下の業務監視をはじめ、喫煙や会食の制限など、行き過ぎた行動管理は社内外の炎上リスクも懸念される。社員の権利やプライバシーを侵害せずに、企業として管理するのはどこまで許されるのだろうか。特定社会保険労務士の大槻智之さんに見解を聞いた。

「テレワーク中は常時Zoom接続」指示で社員から猛反発

 コロナ下において、企業から社会保険労務士事務所への問い合わせ内容は、時期によって変化している。例えば新型コロナウイルスの感染が拡大し、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月は「感染者の勤怠はどうすればいいのか」「濃厚接触者の社員にはどう対応したらいいのか」という相談が多かったという。

過度な監視や勤務外対応などでの「リモートハラスメント(リモハラ)」が問題視されている。中には心身共に支障をきたす社員も
過度な監視や勤務外対応などでの「リモートハラスメント(リモハラ)」が問題視されている。中には心身共に支障をきたす社員も

 「ワクチン接種が始まった2021年4月からは『ワクチンを打ちたくない社員を解雇することはできるのか』という相談が増えました。一方で、反ワクチンの経営者から『社員にワクチンを打たせないようにするには、どのような規則をつくればいいのか』というあり得ない内容のものもありました」(大槻さん)

 最近は在宅勤務が定着し、「テレワークがうまくいくためのルールを決めたい」「他の企業がテレワークをどのように運用しているか知りたい」という依頼が増えているという。

 「在宅勤務だと社員の顔が見えないから、進捗状況や取り組み具合が分かりにくい。そのため、誰がどこで何をしているのかを可視化できるよう、ツールを導入したり規則をつくったりしたいという企業が増えています。ですが、企業の過度な『管理』は社員に『監視』と受け取られ、反発を招きます。実際に、30人規模の中小企業が、社員全員にテレワーク中はZoomをつなぎ続けるよう指示をした事例があります。結果、社員がストレスを感じ、2週間でその施策は終わったようです」

 では、企業が社員の価値観や多様性を尊重しながら、リモートワーク下で管理をするためにはどうすればいいのだろうか。大槻さんが3つのケースをもとに解説する。

特定社会保険労務士で、大槻経営労務管理事務所代表の大槻智之さん
特定社会保険労務士で、大槻経営労務管理事務所代表の大槻智之さん