育休や時短勤務制度の導入では改革に値しない理由

塚原 「G20 EMPOWER」が2021年に実施した、性別による不平等を検証する視点「ジェンダーレンズ・サーベイ」(参考記事・男女平等の視点「ジェンダーレンズ」21社の実態調査で聞かれた声として、「女性の管理職比率が前年よりも高く、数年前から比べると倍増したから自社の女性活躍は結果を出した」というものがありました。

「ジェンダーレンズ・サーベイ」のジェンダーレンズ・チェックリスト(G20 EMPOWERの資料を基に編集部作成)
「ジェンダーレンズ・サーベイ」のジェンダーレンズ・チェックリスト(G20 EMPOWERの資料を基に編集部作成)

塚原 確かに前年比では成果が出ているかもしれませんが、比べるべきは過去ではなく、目標です。企業が目指す「ありたい姿」にどれだけ近づいているか、どれだけギャップがなくなっているかを見てほしいのです。

 過去との比較になると、例えば育休や時短勤務制度を導入しただけでも、女性が働きやすい会社になったことになってしまいます。ですが、そもそも労働時間は長いほど仕事能力が高く、短いと低いのでしょうか。定時で仕事を終わらせて就業する人が申し訳なさそうに「今日は定時で帰ります」と言う職場は、おかしくないでしょうか。

 労働時間や勤続年数ではなく、仕事の質で評価する制度に変えることで、子育て中であってもなくても同じように評価され、性別に関係なく活躍できる企業になります。これが働き方の制度改革です。

アキレス 日本は、さまざまな労働関連法や企業の人事制度が整っている国です。にもかかわらず、思うような結果が出ない原因の一つは、制度を実施した結果の検証をあまりやっていないことにあると思います。

 「ジェンダーレンズ・サーベイ」の調査結果でも、採用時は男女の数が均等なのに、管理職の比率はなぜか男性が高い。採用時に男女数を均等にしたことで、「あとは本人の努力次第」とし、「我が社は男女平等」と思ってしまう。

 目指す組織の在り方が「性別に関係なく等しく活躍できる環境」であれば、採用時だけでなくキャリアの節目節目で、あるべき男女比率について数値目標を立て、ギャップを埋めていくことが大事です。

 併せて、施策や制度は組織戦略や外部環境の変化に応じて見直し、現在にふさわしい内容に更新する必要もあります。

塚原 今回話したダイバーシティの考え方は「G20 EMPOWER」が発行する「G20 EMPOWERベストプラクティス・プレイブック」内、27か国167事例から得られた6つの示唆として紹介しています(参考記事・世界167事例を取り入れて自社の女性活躍推進を加速。目標達成の参考にしてもらえればと思います。次回からは、6つの示唆を実践している世界の企業を紹介していきます。

取材・文/力武亜矢(日経xwoman) 写真/PIXTA

アキレス美知子(あきれす・みちこ)
SAPジャパン 人事戦略特別顧問
上智大学比較文化学部経営学科卒業。米フィールディング大学院組織マネジメント修士課程修了。シティバンク銀行、モルガンスタンレー証券、メリルリンチ証券などで人事・人材開発を歴任後、あおぞら銀行常務執行役員、資生堂執行役員を経て、2015年からSAPジャパン常務執行役員人事本部長、19年から現職。米Diversity Global誌「17年グローバルダイバーシティにおいて最も影響力のある10人の女性」に選出。横浜市参与、三井住友信託銀行取締役、内閣府男女共同参画推進連携会議議長も務める
塚原月子(つかはら・つきこ)
カレイディスト 代表取締役
米ダートマス大学タック経営大学院修士(MBA)、東京大学経済学部卒業。運輸省(現国土交通省)、ボストン・コンサルティング・グループ、カタリスト・ジャパンを経て2018年2月から現職。ダイバーシティ&インクルージョン領域のコンサルティングを行う。19年、G20公式エンゲージメントグループであるW20の日本運営委員会事務局長を務め、20年よりG20 EMPOWERの日本共同代表に。3児の母親として、育児と仕事の両立を図る働き方改革を実践中