ジェンダー・ギャップ指数において、つねに上位にランクインする北欧諸国。しかし、女性活躍や男女平等への取り組みについて、今までは「女性」や「若いカップル」の視点から語られることが多かったかもしれません。では、「北欧のおじさん」世代は日々、どのように考え、行動しているのでしょうか。北欧ジャーナリストの鐙麻樹(あぶみ・あさき)さんがリポートします。

「私は女性リーダーという言葉を使うのが好きではない」

 北欧といえば、ジェンダー平等が進んでいる国々として知名度が高い。世界経済フォーラム(WEF)が発表した男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数2021」では、1位アイスランド、2位フィンランド、3位ノルウェー、5位スウェーデン。日本は156カ国中120位だった。

 そういえば、私が住んでいるノルウェーでは高齢者世代もジェンダー平等の価値観を当然のように受け入れている。そして、すべての世代が「この国の平等はまだまだ」と満足もしていない。

 日本のメディアが北欧のジェンダー平等について取り上げるとき、女性や若いカップル、若いパパがインタビューされがちな印象がある。そこで私は、もっと世代が上の男性たち──いわゆる「北欧のおじさん」世代の声を聞きたくなった。

 この世代でも「妻を手伝う」という感覚はあまりないが、これはすごいことではないだろうか? 年齢の高い世代で、どうしてこのマインドセットは浸透したのだろう? このインタビューを通じて、考えてみたい。

 今回は救命率を高めるための医療教育ソリューションを提供しているノルウェー企業レールダルメディカル(Laerdal Medical)で取材をした。話を聞いたのは、ノルウェーの都市スタバンゲルにある本社で働く男性と、日本法人で働く男性。同じ企業だが、ノルウェー現地と、日本法人での男性リーダーの体験談を比較することで、多角的に北欧モデルを理解することができるかもしれないと考えたためだ。

 まずはレールダルメディカル・ノルウェー本社の最高人事責任者であり、人事・サステナビリティー部署のトップでもあるアーネ・セグレム・ラーセン(Arne Seglem Larsen)さんに話を聞いた。

レールダルメディカル・ノルウェー本社の最高人事責任者である、アーネ・セグレム・ラーセンさん
レールダルメディカル・ノルウェー本社の最高人事責任者である、アーネ・セグレム・ラーセンさん

 すると、すぐに意外な言葉が彼の口から飛び出した。

 「私は女性リーダーという表現が好きではない。性別ではなく、リーダーという観点で話し合うべきだからです」と。

 「私たちは優秀な人材を探しています。強くプロフェッショナルで、リーダーシップも兼ね備えている人を。若くて才能ある人を採用することは、今後リーダーになる人たちにとって最重要課題となります。ジェンダーバランスを整え、女性のリーダーを育てるためには優秀な女性を雇うことが必要となります」

 ちなみにレールダルメディカルでは上級職のリーダーを採用するとき、経営幹部のリーダーたちに「傾斜育成モデル」を使いながら、3人の候補者を挙げるように促すそうだ。候補者には以下の要素が必要とされる。

・少なくとも1人は(今回、新リーダーを必要とする)その部署出身の候補者であること

・もう1人は部署間の能力を広げて移動できるような、別部署からの候補者であること

・少なくとも1人は女性であること

 「わが社の目標が『女性リーダーの割合を最低でも40%に』だとマネージャーたちは理解していますが、候補者が絞られてきた段階で、ジェンダーは決定要素からははずれます。長期的・短期的に、どの候補者が最適かが最優先事項となるのです。

 2020年10月の時点で女性のチームリーダーは38%、女性の上級職マネージャーは31%となっています」