今月からノルウェー在住の北欧ジャーナリスト・写真家の鐙麻樹(あぶみ・あさき)さんの連載が始まります。世界の中でも女性の社会進出が進み、社会保障政策も手厚い北欧諸国。北欧と日本の違い、北欧の文化や暮らし、若者の政治参加など北欧諸国の「今」を鐙さんに伝えてもらいます。今回はスウェーデンに初の女性首相が誕生した話です。

北欧諸国で最後に女性首相が誕生したスウェーデン

 「やっと……!」。正直に私はうれしかった。スウェーデンで初の女性首相が誕生したというニュースは11月に世界を駆け巡った。

 北欧といえば「女性が活躍しやすい国々」というイメージが国際的に浸透している。それなのに、北欧5カ国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランド)の中で「まだ」女性首相が誕生していない「意外すぎる国」がスウェーデンだった。

 男性首相が延々と続いているために、北欧事情を日本メディアで紹介するたびに、スウェーデンだけはまだ女性首相が出ていないことを説明しなければならず、「まだかな~、まだかな~」と、私はずっと感じていた。

 初の女性首相の名前は、マグダレナ・アンデション。ロベーン元首相と同じ政党「社会民主労働党」で、これまでは財務大臣を務めていた。

マグダレナ・アンデション(54歳)
マグダレナ・アンデション(54歳)
1967年生まれ。両親は大学教授の父、教師の母。水泳選手として活躍し、17歳から社会民主労働党の活動を始めた。2014年から財務大臣を務め、2021年11月にスウェーデン初の女性首相に。ロベーン元首相よりも議論にタフで、ストレートに議題に切り込むため「ブルドーザー」というニックネームも。夫は経済学の教授で、子どもは2人(写真/ロイター/アフロ)

 北欧5カ国すべてで女性首相が誕生したという事実は歴史的である。右派とか左派とかは関係ない。女性の政治家や閣僚が少なく、女性首相が誕生していない国には取り組むべき構造的な問題があることを象徴している。スウェーデンもようやくその課題をクリアしたのだ。

 私がノルウェーに移住したのは2008年。オスロ大学ではメディア学を専攻していたが、副専攻はジェンダー平等だった。当時の文献はスウェーデン語で書かれたものが圧倒的に多く、この分野でスウェーデンの研究が進んでいることを象徴していた。

 しかし、スウェーデンのロベーン元首相が率いる政府はこう言い続けていた。「それでも私たちはフェミニスト政権だ」と。そんなことを言ったら他の男性首相ばかりの国々がセリフをまねしちゃうから、そういう北欧モデルは宣伝しないでくれと私は心の奥で思っていたものだ。

 どれだけ閣僚や国会議員に女性が多くても、女性首相が誕生していないという背景が何を意味しているのか、国民もメディアも真摯に考えなければいけない。日本も同じく、国会の風景は社会を反映している鏡だからだ。