近年の研究から、「歯と口の中の状態は全身の健康と密接に関係する」ことが明らかになってきました。歯を1本でも多く残すことは全身の健康につながります。歯学博士の照山裕子さんに、歯と口のケアについて詳しく教わる本連載。歯のしくみを解説した前回に続き、今回は歯を失う2大原因である「虫歯」「歯周病」のメカニズムとその対策の要である「フロス」の活用について詳しく聞いていきます。

歯周病は下から、虫歯は上から攻めてくる
歯周病は下から、虫歯は上から攻めてくる

虫歯や歯周病に深く関わるぬめり「バイオフィルム」

 歯を失う2大原因、歯周病と虫歯に共通する原因がある。それが「バイオフィルム」だ。口の中に食べかすなどが残っていると、それが口の中の細菌が増える原因になる。その細菌同士が結びついて、簡単に取れなくなっているのが 「バイオフィルム」の正体だ。

 「以前は歯についたぬめりのことを歯垢、あるいはプラークと呼んでいましたが、最近では、歯だけではなく歯ぐきの表面や舌の上など、口の中のさまざまな部分に発生するぬめりを、『バイオフィルム』と呼びます。身のまわりの物で例えると、台所の排水口などに発生するぬめりと同じようなものです」

バイオフィルムとは
バイオフィルムとは
細菌の“繭”のようなもの。まずペリクルという糖たんぱくが形成する膜に、さまざまな種類の細菌がくっつく。そして自らが放出する粘着性の物質とともに、密集した集合体をつくる。口の中では歯の表面や歯周ポケット内などで3日ほどかかって形成されて、次第に厚みを増してくる。

虫歯は好気性菌、歯周病は嫌気性菌

 一方、異なる点がそのバイオフィルムにいる菌の特徴だ。虫歯を引き起こす原因菌のミュータンス菌は酸素のある環境でも生きられる「好気性菌」。だから、酸素が豊富な歯の表面で増殖していく。つまり歯を上から襲う。

 だが、「大人になるとエナメル質が成熟して硬くなるので、歯の上部にはそれほど大きな虫歯はできません。大人の虫歯で圧倒的に多いのは、歯と歯の間にできる『すき間虫歯』です。また、加齢とともに歯ぐきが下がっていくと、歯の根元の軟らかい部分が露出する。そこにできる『根元虫歯』にも注意が必要です」

歯の表面に穴が開いていく

虫歯

う蝕ともいう。歯の表面に付着した虫歯菌が、食べかすの糖から酸をつくり出す。この酸によって歯の表面のエナメル質が溶かされて穴が開く。これが虫歯で、放置すると象牙質や神経まで浸食されて、やがて歯を失う。

原因となる菌

虫歯を引き起こす原因となる細菌は、現在のところ約10種類発見されている。その中で虫歯をつくる力が最も強いのは、ミュータンス菌だ。

特徴

好気性菌なので、歯の表面などの酸素の多い環境でも生きられる。口の中に残っている炭水化物や砂糖などを栄養分として取り込みながら、増殖していく。