「口の老化」は「歯」だけの問題ではありません。噛む力、舌の力、唾液量などの口まわりの機能は、加齢とともに誰もが徐々に落ちていきます。「食べる力」を保つためには、歯のケアだけでは不十分、口全体の機能の維持が大事になります。
 歯科医で歯学博士の照山裕子さんに、口全体の老化「オーラルフレイル」について2回に分けて聞いていきます。後編となる今回は、口の中の機能を向上させる3つの体操や食事の際に注意したいポイントなどを解説していただきました。

軟らかいものばかりだと栄養のバランスにも影響

 オーラルフレイルになると、どんな問題点があるのか。「口まわりの筋力が低下すると、歯を失った場合と同じように、肉類や葉物野菜などをうまく噛み切れなくなります。食事のメニューに取り入れなくなるため、たんぱく質やビタミン類などの摂取が減少し、栄養不足になります。高齢者では体の衰弱にもつながります」

 オーラルフレイルは口の虚弱だが、そのまま放っておくと、全身の虚弱状態である「フレイル」につながりかねないのだ。

 オーラルフレイルは進行すると、口腔機能低下症に移行する。一部の歯科医院では口まわりの機能低下を調べる口腔機能低下症の検査が受けられる。

 「以前は咀嚼や嚥下など、口の中の機能が落ちているかどうか、個別に検査していました。しかし、口の中の機能は相互に関連し合っていることがわかってきたため、今は一体的にとらえるようになったのです」

 口腔機能低下症かどうかは、7種類の検査を行い診断する(下欄)。例えば、咀嚼機能の低下を調べる検査では、グミゼリーを20秒間噛んでから吐き出し、歯でどれくらい細かく粉砕できたかを10段階で判定する。このように、実際の「食べる力」を調べるわけだ。

口腔機能を調べるには?

口腔機能が低下しているかどうかは、専用の検査機器を備えた歯科医院で検査できる。65歳以上の人と64歳以下の特定疾患の人は保険診療で受けられ、それ以外の人は自費診療になる。下の7種類の検査を実施し、判定基準を下回る項目が3つ以上ある場合は「口腔機能低下症」と診断。生活指導や訓練指導を受けられる。

  • (1)口の汚れを舌苔の付着程度で判定
  • (2)口の粘膜の湿潤度と唾液量を計測
  • (3)咬合力を計測し、残存歯数を数える
  • (4)パ・タ・カを1秒あたり何回言えるか計測
  • (5)舌圧計測器で最大舌圧を計測
  • (6)グミゼリーを咀嚼し、粉砕度を計測
  • (7)嚥下に関するアンケート

3つの体操で口の中の機能を向上させる

 何歳になっても食事をおいしく、自分の口で食べるには、前回紹介した口まわりの4つの力の維持が欠かせない。「オーラルフレイルを防ぐには、この4つの力を意識したセルフケアのポイントを覚えておいてもらえればと思います」。そこで、照山さんが実践してほしいというのが3つの体操だ。

 「口まわりを鍛える体操にはさまざまな種類がありますが、なかなかたくさんはできないと思います。体操のエッセンスを取り出したら、この3つに集約されるのではと考えています。口の中のどの部分に働きかけているのかを理解して行えば、より効果的です」