2021年10月末の衆議院総選挙に続き、22年7月には参議院選挙が待っています。しかし、「政治家や政策のことをよく知らないし、誰に投票すればいいのか分からない…」という人も多いはず。そんな政治初心者が投票先を選ぶための、ハードルの低いやり方はないものでしょうか。政治学者の菅原琢さんに相談してきました。
あなたの日々のイライラは、実は「政治の問題」かもしれない
日経xwoman編集部(以下、――) 選挙の日が来ると毎回、投票日にポスターや選挙公報を見渡して適当に1人を選ぶだけ、という人は少なくないと思います。そんな選び方しかできないと、投票に行くこと自体が面倒に感じてしまうのも分かります。
菅原琢さん(以下、菅原) 多くの日本人にとって、政治は「知らないおじさんたちがテレビの向こうでやっていること」というイメージかもしれません。だから、政治を自分に結び付けて、自分にも関係あることだと考えにくい。でも、政治は本来もっと身近なものです。
例えば、あなたがある会社に入社したけれど、仕事が大変過ぎる、上司がキツいといった不満を感じているとします。あなたはこれを単なる個人的な悩みだと思っていますが、実はこれも「政治の問題」かもしれません。ブラック企業をなくしたり、ハラスメントが起きない社会をつくっていったりするのは、政治家の仕事でもありますから。
ゴミ出しの日が少な過ぎるとか、そんなささいなイライラも、やはり政治によって改善できるかもしれない課題の一つです。社会に不満や衝突が発生したときに解決策を提示するのが政治の役割なのですから。だから政治に関心を持ち、投票先を選ぶためにまず重要なのは、自分自身が日ごろから感じている問題は何か、を自覚することです。

―― なるほど、私のイライラはひょっとすると「政治が解決すべき問題」かもしれない、と考えてみるところから始まると。しかし、不満を自覚したとしても、今度はそれがどう政治とつながるのかが分かりにくいですね。
菅原 はい、そこが難しい問題です。多くの人が不満に思っている問題は、本来は政治の側が、「それを政治が解決します!」と国民に対してもっとアピールするものです。人々の要望や不満を聞いて対応することで、政治家は選挙で票を得るわけです。でも現状、日本は欧米と比べて、政治と国民の接点が少ない社会だといえます。
―― 日本が特に、政治との接点が少ない?
菅原 専門的な言葉になりますが、日本は「中間団体」が弱い、「社会関係資本」が弱いといわれています。欧米などでは、所属しているグループなどを通じて、政党や政治家との接点を持っています。労組や業界団体など仕事に関わる組織だけでなく、例えば通っている教会などの宗教団体やボランティア活動、スポーツのサークルなどを通じて、直接/間接に政界とつながっています。政治が身近で人々の要望や不満が政界に伝わりやすいのです。
日本でも自民党は、さまざまな業界団体や地域共同体とのパイプが太いですが、ごく一般の人々との接点は弱いです。さらに野党は、第1党の立憲民主党がまだ結党4年と歴史が浅いこともあり、人々とつながるネットワークが脆弱です。だから一般の人々から政治は縁遠く、よい大人でも「ノンポリであることが当たり前」という状況になってしまっています。みなさんのまわりでも、政治に関わるどころか、関心を持っていること自体が異常みたいなところがありませんか?
―― 日本は、構造的に政治を身近に感じにくい社会なのですね。しかし、この構造はすぐに変わるものではない。そんな日本の普通の「政治初心者」が、自分で納得できる投票先の選び方はないでしょうか。