2022年2月23日の午後。みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙(あまの・たえ)さんのもとに、国民民主党の矢田わか子議員から電話が入った。「2日後の参議院予算委員会に来て、所得制限について現状を話してもらえないか」。天野さんが議会に呼ばれるのは、これで4回目。民間人の天野さんがなぜ、どのような経緯で議会に出席するようになったのかや、政治に参加する方法を語ってもらった。

子育て政策活動が政治家の目にとまった

 私が初めて議会に参考人招致されたのは、2017年3月でした。労働省(現厚生労働省)の初代婦人局長の赤松良子さんが代表を務める「クオータ制を推進する会」に参画する中で出会った政治家、柚木道義議員に声を掛けられ、衆議院厚生労働委員会で話をしたのが最初の招致でした。

 その1年前、保育園の入所選考に落ちた親が「保育園落ちた日本死ね」と書いたブログが話題になりました。その喪失感や、やりきれない気持ちに共感しつつ、私は「死ね」という言葉を使うことに抵抗がありました。そこで、「#保育園に入りたい」というポジティブなキーワードで発信しよう!と呼びかけ、待機児童問題の改善に向けて声を上げていたところ、その活動が柚木さんの目に留まり、参考人招致となったのです。

 2回目は衆議院予算委員会公聴会の公述人(特定事案に意見する専門家)として出席しました。このときは「男性育休の義務化と待機児童解消が少子化抑止のレバレッジポイントになる」と話しました。その思いに共感してくれた議員が、6月に「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」を作り、政治家と民間人が積極的に連携して情報発信を行いました。私も議員会館でイベントを主催し、司会進行などを担当しました。

 翌年の1月に小泉進次郎さんが育休を取得すると、一気に男性の育休取得について盛り上がり、2021年6月の国会で法改正がなされ、今年の4月から法律が施行されました。政治家でもない一般人の私が、思いを発信すれば法律を変える一端を担うことができることに感激しました。

 3回目は、19年5月に参議院内閣委員会の参考人として出席し、幼児教育保育の無償化について意見陳述しました。そして4回目が22年2月に、参議院予算委員会の参考人として、子育て世帯の所得制限について、市民からみらい子育て全国ネットワークに届いた声を伝えました。

 現在、高校の授業料無償化の制度(高等学校等就学支援金)では、両親の合計所得額に応じて恩恵を受けられない子どもたちがいます。その額が崖のような設計になっていて、例えば年収590万円世帯と591万円世帯では給付が年間約30万円も異なるため、子どもが自由に学校を選べない状況が発生しています。また、子どもが大学で奨学金を利用したいと思っても、きょうだいの有無に関係なく親の所得が高ければ借りることができません。

 子どもの数にかかわらず所得を基準にする制度は、子どもが多いほど金銭的に苦労することを意味します。これでは、子どもが振り回されるだけでなく、親も所得制限を気にしながら働かなくてはいけません。子どもを増やすことをためらう人が出ますし、世帯収入額の向上の妨げにもなります。誰もが活躍できる社会の実現につながりません。私は、所得制限をなくすか、せめて負担額の段階設計を緩やかにするかが必要だと思います。

 日本は高齢者が多いため医療・年金の支出も多く、現役世代の負担を大きくし、さらに国債などの借金をして社会保障給付をしています。この現状は、まるで大人が子どもの貯金箱に手をつけて生活しているようなものです。もっと給付バランスについて考え、現役世代に投資すべきではないかと考えています。

 ……と、今でこそ子育て政策について発言していますが、もともとは政治に全く興味がありませんでした。