「BNPL」を知っていますか? 実はこれ、買い物時の「決済」に関する新しいトレンドを表すキーワードです。海外でここ数年、大きく拡大しているといいますが、その意味は…? デジタル決済を取材するジャーナリスト、鈴木淳也さんに解説してもらいました。
言葉の意味は「後払い」――それのどこが新しい?
日経xwoman編集部(以下、――) 「BNPL」とは、聞き慣れない言葉ですね。
鈴木淳也さん(以下、鈴木) 「Buy Now Pay Later(今買って、後で支払う)」の頭文字を取った言葉がBNPLです。つまりは「後払い決済」のことですね。ここ数年、欧米の一部やオーストラリアなどで一気に拡大してきた決済方式で、日本ではまだそこまでの盛り上がりはないものの、新たな決済サービスが次々登場してきている状態です。
―― 後払いのこと、なのですか。しかし、後払いの決済なら前からありますよね……?
鈴木 はい、そうなんです。クレジットカード決済や請求書払いなども後払いには変わりありません。BNPLと呼ばれるのは、今までとは違うタイプの後払い決済のことです。従来の後払い決済への不満や、それらが満たせていなかったニーズに応えて、AI(人工知能)など、最近の技術の進歩を背景に登場してきた新型の後払い決済を指すと思ってください。
なので実は、国によってもBNPLが置かれた状況は異なります。まず、先にBNPLが注目された欧米の経緯について知ったほうが理解しやすいと思います。
米国ではクレジットカード決済が非常にポピュラーです。でも、日本のクレジットカード決済とは状況が異なっていて、ほとんどが「リボルビング払い」であり、それなりに金利負担があるんです。日本なら、翌月払いだと手数料無料が当たり前ですよね。
それに加えて、米国のクレジットカードは限度額(与信枠)がとにかく少ない。クレジットヒストリー(信用履歴)がまだたまっていない最初の段階は1000ドル(現在の為替レートで11万5000円程度)などで、そこから利用実績を積んで信用スコアを上げていくと、少しずつ上がっていく仕組み。米国の場合、信用スコアはFICO(ファイコ)スコアというものが使われているのですが、収入状況などに大きく依存するため、中間層以下や学生などは全体に与信枠がほとんどもらえません。

そこで登場してきたのがBNPLです。AIや行動履歴のデータを活用し、FICOスコアとは違う基準で与信枠を与える。短期で返済すれば金利がかからない、そういう決済サービスとして登場し、米国内のニーズをうまくつかみました。
勢いづいたのはここ2年くらいで、コロナ禍で多くの米国の労働者が一時的な収入低下に見舞われたことがきっかけの一つです。給与収入が減ると、たとえ政府の給付金などで生活がカバーされていたとしてもFICOスコアは悪化し、与信枠がすぐに減ってしまうので、ろくにクレジットカードが使えなくなった人が増えました。すると、小売店の売り上げにも響くので、そんな人たちでも使えるBNPLを支払い手段に加える百貨店などが一気に増えたという経緯です。
一方の欧州やオーストラリアは、デビットカード(決済時に即座に銀行口座から代金が引き落とされるカード)が中心で、もともとクレジットカードの利用がそこまで多くありません。気軽に使える後払い決済自体が乏しかった。ここでもやはり、手数料の不要な後払い決済に大きなニーズがあったわけです。
このように世界では、まだキャッシュレス決済全体に占める比率は小さいながら、取りこぼされていたニーズを的確に捉えて急速に伸びている状況です。
―― なるほど、日本に関してはどんな状況でしょうか?
鈴木 ちょっと状況が違います。日本はもともと、欧米とは決済環境がかなり違っていたので、BNPLが欧米のそれとは異なる意味を持っているのです。