ジェンダー不平等の社会は男性も生きづらい

 「ジェンダー平等の考え方が浸透しないと、女性のみならず、男性にとっても息苦しい社会になります」と永田さんは指摘します。

 「日本の自殺率は男性のほうが高くなっています。これは、今なお多くの男性が『男は家族を養わねばならない』『男は弱音を吐いてはならない』といった従来の価値観に縛られて苦しんでいることと無関係ではないと考えています。働き方改革を進めて、男性も含めたすべての人が働きやすい社会を実現することが、女性活躍推進のための第一歩であることを忘れてはいけないと思います」

 現在の部署では、自身以外は全員女性という永田さん。当初は周囲が女性ばかりという状況に対して、身構える気持ちがあったといいます。

 「男性ばかりの職場で過ごしてきたため、同僚が女性だけの環境で働く体験は新鮮でした。女性が少ない組織で働いている男性は、これまで男性としか仕事をしてこなかった人が多いので、コミュニケーションそのものにためらいや不安があるかもしれません。私の場合は、性別に関係なく、仕事の目的を言葉にして共有し、上司・部下といった役職を意識せずに仲間としてフラットな立場で働くというスタンスを取るようにしたことで、コミュニケーションがうまくいくようになりました」

「今まではこうだった」という慣習を断ち切る

 職場でジェンダーギャップを解消するにはどうすればいいのでしょうか。永田さんは、身近なところで「自分が経験して嫌だったことを、次の世代にはさせないことが重要だと思います」と言います。

 「既に子育てを経験した世代には、男性であれば『本当は子育てにもっと関わりたかったが、仕事で認められるには長時間労働をせざるを得なかった』、女性であれば『家事・育児のために、やりたい仕事を諦めざるを得なかった』という人もいるでしょう。そういう人々が『自分は耐えてきたのだから、つらくても我慢すべき』という考え方をすると、ジェンダーギャップを次の世代にも引き継いでしまうことになります。

 社会を変えるには、どこかで『今まではこうだったから』という慣習を断ち切らなければなりません。その慣習を断ち切るにはマネジメントの立場で推進する必要があり、部下のワークライフバランスや育児に理解がある『イクボス』の存在が非常に重要になります。子育てを終えた世代も考え方をバージョンアップさせていく必要があるのです」

 家庭内では、新型コロナの感染拡大に伴い、女性の家事・育児・介護などの負担が増加しているともいわれています。家庭内でのジェンダーギャップの解消に関して、永田さんは次のように話します。

 「子育て世代の皆さんには、家事分担についてパートナーと一度しっかりと話し合うことをおすすめします。パートナーがゴミ捨てを担当するのであれば、集まったゴミを外に出す作業だけではなく、すべての部屋のゴミを集めるところからやってもらう。『ここからここまでがあなたの担当』ということを明確にしましょう。話し合いの際には、『これは相手の立場から見ても妥当なことだろうか』という視点を持つことも重要です」

 さらに、「コロナ下での在宅勤務の普及は、男性の家事・育児を促す好機でもあります」と指摘します。

 「女性に家事・育児の負担が集中しているなら、男性に対して『在宅勤務になって減った通勤時間の一部を家事・育児に当ててください』と言うことは、男性の自立にもつながります。現在はさまざまなレシピ動画もありますから、そういったものも活用しながらゲーム感覚で料理などの家事をしていくことは、男性が定年後に『妻がいなければ何もできない』という状態にならないためにも大切なことです」

子どもには「あなたはどう思う?」の問いかけを

 最後に、子どもへのジェンダー教育において、親はどんなことを心がければいいのかを、永田さんに聞いてみました。

 「家庭ではジェンダーフリーの考え方を教えていても、学校や習い事では『男の子は青を、女の子はピンクを選んでください』と言われることがあるかもしれません。そんなとき、保護者は『あなたはどう思う?』と、子どもと対等な立場で会話をする中で聞き出し、一緒に考えてほしいと思います。親や先生が言うことにただ従うのではなく、自分の頭で考え、自分の意見も相手の意見も尊重しながら対話を重ねる。そうした姿勢を身に付けることは、子ども自身が幸せに生きる上で大切なことですし、将来の良きリーダーになるために必要なことでもあります」

 「ジェンダー平等のための取り組みは、『国がこういう施策をしているから』というのではなく、『自分も周りの人も幸せになれるように』『これから10年後、20年後の日本を考えたときに、社会全体のためになるように』という視点が必要です」と永田さんは話します。子どもに対して、こういった視点で話をすることも、「なぜジェンダーにとらわれないことが大切なのか」を教える上で大切なことだといえそうです。

男性育休を1カ月程度取得した国家公務員が、家庭での育児・家事に励む一コマを紹介した「霞が関のパパたち写真展」をPRしている永田さん
男性育休を1カ月程度取得した国家公務員が、家庭での育児・家事に励む一コマを紹介した「霞が関のパパたち写真展」をPRしている永田さん

取材・文/安永美穂

永田真一(ながた・まさかず)
内閣官房内閣人事局企画調整官
永田真一(ながた・まさかず) 総務省入省後、奈良県庁勤務、留学先のフランス大学院でジャーナリズムを専攻。首相官邸国際広報室ではフランス語担当として安倍前首相の外遊に17カ国随行し、フランス語圏への戦略的対外広報を担う。その後、総務省行政管理局で「オフィス改革伝道師」などを経て現職。女性活躍促進・ダイバーシティ担当として、男性育休1カ月の推進など、社会の空気を変え、誰もが生き生き働ける組織の変革に携わる。