「自分の声なんて届かない」という諦めから脱却しよう

 社会を変えていく第一歩として、「自分一人の声なんてどうせ届かない」「不平等は変えらない」という諦めから脱却するのが、大変だけれど大切なこと。

 もともと私が声を上げたのは、日本の性教育の不足や緊急避妊薬導入へのハードルの高さに対する課題意識から。大学在学中に1年間スウェーデンへ交換留学したときに大きなギャップを感じ、帰国後もモヤモヤが残りました。それをきっかけに、2018年5月、「性と生殖に関する健康と権利」を守る活動を始めました。

 この活動では、性や避妊についてダイレクトに触れる内容を発言します。そのため、「そういう話をよく人前でできますね」「どうやってそのタブーを打ち破ったんですか」といった声もあります。私にとって、性や避妊を語ることはごく自然なことで、性と生殖に関する健康は当たり前の権利。タブーや恥ではありません。ですから、タブーを打ち破るという意識はありませんでした。

性の不平等に関する同じ違和感と不条理な気持ちを持つ賛同者の声に背中を押され、揺るぎなく発信を続けてきた
性の不平等に関する同じ違和感と不条理な気持ちを持つ賛同者の声に背中を押され、揺るぎなく発信を続けてきた

 3年間、活動を通じて声を上げ続け、社会が変わってきた実感はあります。例えば、私が今力を入れている緊急避妊薬の薬局販売の要望は、「市販してほしい」という署名が10万筆を超えました。

 最初にスウェーデンで避妊薬を薬局で見つけたときには本当にショックでした。私はたまたまスウェーデンにいるので、望めば1500円弱で避妊薬が手に入る。でも日本では、「高いから」「病院に行けないから」と妊娠への不安で眠れない人がこの瞬間にもいるのです。「同じ人間なのに、なぜ日本の女性は、スウェーデンの女性に比べて緊急避妊薬を手に入れるためのハードルが高いのか」と不条理を感じ、真昼の薬局で泣きました。

 留学から帰国後、緊急避妊薬の薬局販売の必要性や避妊の選択肢を増やすことについて周囲に相談したときは、「日本では無理」「日本はまだ成熟していない」と言われて、私自身も誰も賛成してくれないだろうという気持ちが強くありました。

 緊急避妊薬に関する話をすること自体に抵抗がある人もいます。「低用量ピルを飲んでいる」と言うと「遊んでるの?」という目を向ける人がいまだにいるので、「緊急避妊薬を薬局で買えるようにしてほしい」と声を上げるには勇気が必要です。女性たちの本音が埋もれてしまっていたという気がしています。

 今の活動を始めたのは、いろいろな避妊法を含めて、性と生殖に関する女性の選択肢が日本にも欲しいという思いから。自分一人だけでなく、他に思いを同じくしている人がいたらその声は大切にされるべきだという気持ちで始めたんです。

 実際に署名活動を始めたら、「# 緊急避妊薬を薬局で」という言葉がTwitterのトレンドワードに何度か上がり、さまざまなバックグラウンドを持つたくさんの人たちが、「当たり前に必要だよね」ということを発信してくれました。

 2020年12月、今後5年間のジェンダー政策の方針をまとめた「第5次男女共同参画基本計画」では、処方箋なしで緊急避妊薬を購入できるよう検討することが盛り込まれました。最近は国政の場でも、性教育や避妊、中絶に関する質問を受けることがあり、私が運営する「#なんでないのプロジェクト」とNPOピルコンが共同で行った「緊急避妊薬 薬局での適切な運用のための1万人ウェブアンケート」の結果をエビデンスの一つとして引用してもらえました。多くの人からの回答があったこと、そして改善に向けて行動を起こしてくれた議員の皆さんに改めて感謝するとともに、「一人ひとりの声に力がある!」という実感が持てる一つのきっかけになればうれしいです。小さな一歩でも声を上げ続けてきたことで、変化の兆しが見えたことは励みになります。