2022年4月、パナソニックは持ち株会社制として新たなスタートを切りました。事業会社の1つが、樋口泰行氏が率いる「パナソニック コネクト」です。25年ぶりに古巣に出戻った樋口氏は、「変わらなかった」パナソニックで改革に取り組んでいます。そのひとつ、ダイバーシティ・イクイティ&インクルージョンについて、樋口氏が語ります。
※『パナソニック覚醒 愛着心と危機感が生む変革のマネジメント』(日経BP)の一部を抜粋・再構成したものです。
2017年4月にパナソニックに戻ってきたとき、コネクティッドソリューションズ社のトップを委ねられました。改革を進めるにあたって、ひとつテーマとしてしっかり据えておかなければいけないと最初から考えていたのが、ダイバーシティ・イクイティ&インクルージョンでした。
多くの日本企業が、まだまだ「昭和」の空気を引きずっているのが事実だと思います。女性をはじめとした働く場におけるマイノリティーの方々が、しっかり尊重されているか。私は長くダイバーシティの進んだ外資系企業にいましたので、ここはしっかりフォーカスをしなければいけないところだと考えていました。

もとより女性の登用や管理職の女性比率を問う前に、ハラスメントをはじめとした人権じゅうりん的なことがまかり通っていたりはしないか、心配していました。それは絶対に許されないことです。その原点から、しっかり向き合わなければいけないと思っていました。
ですから、意識の改革と、いろんなアクティビティの呼びかけを行うのと同時に、数値目標を設定して、ドライブをかけていく必要があると考えていました。
人事の仕事にすると「他人事」になる
ダイバーシティといえば、多くの場合、人事セクションが担当します。もちろん最終的には人事の領域になるわけですが、ダイバーシティは人事マターにしてはいけないと考えていました。
それは、人事の仕事になった瞬間、他人事になってしまうからです。「ああ、人事がやる仕事だよね」となってしまうのです。
人事にとってダイバーシティは自分事です。しかし、それ以外の人たちにとっては、自分事にはならなくなってしまう。やらなければならないのは、他人事だと思っている多くの社員を巻き込んでいくことです。
そのために考えたのが、ダイバーシティ担当の役員をつけることでした。しかも、人事担当ではない役員です。彼らがダイバーシティをけん引する。事業部長にはダイバーシティ推進リーダーになってもらい、各事業の中でもダイバーシティが推進されるような仕掛けを考えていく。
一気に全社で大きく変えていこう、というのは簡単なことではありません。そこで、自分の担当する組織からスタートする、スモールスタートを意識しました。本社は温度感が高くても、ローカルの事業部となると、なかなかそうはいかないからです。
そこでダイバーシティ担当役員が、キャラバンとしていろんな事業所を回り、話を聞きにいったり、いわゆるエヴァンジェリスト活動をしたり、推進リーダーをお願いしたりしました。
LGBTQ(性的少数者)にフォーカスしたトピックでのイベントを開催するなど、さまざまな働きかけをしていきました。