「女性が昇進を望まない」ことの背景
実際に、女性管理職者や役員が増えない理由として、「女性が役員就任を望まない」「女性の昇進意欲がない」と回答する企業は多数派である。例えば、日本生産性本部による2016年調査で、「女性社員の活躍を推進する上での課題」を企業に尋ねたところ、「女性社員の意識」という回答が81.6%と最も多かった。
一方で、中高年男性が管理職の多数派を占める日本の職場では、統計的差別(統計的推定によって起こる差別)や制度的惰性が「職場慣行」の土台となり、女性の昇進意欲を引き下げているとの指摘もある。
「女性活躍」が一番遅れているのは政治分野
2019年の総務省「労働力調査」によると日本の管理職者に占める女性割合は14.8%、一方、国際労働機関(ILO)調査による同世界平均は27.9%と、大きな隔たりがある。今なお日本の女性が昇進意欲を持ち就業を継続するには、「逆風」ばかりが吹き荒れている。
安倍晋三政権の「女性活躍政策」は、結局総合的な意味では「追い風」にはならなかった。なぜなら、第2次安倍政権発足後の2013年から2019年にかけ女性就業者は300万人以上増えたが、その半数以上は非正規雇用であり女性管理職者割合は微増で、何よりそれを「女性自身の意欲のなさ」と考える企業が多数派を占めているからだ。
この問題は単純に女性当事者の問題というよりも、さまざまな要因が絡み合った構造的課題の解決という側面から考える必要がある。
しかし、肝心の政治決定の場には経済分野以上に女性がいない。
2020年、安倍総理の退陣にともない行われた自民党総裁選にも結局女性候補者が立つことがなかったのはこのことの証左であろう。自民党総裁選に過去に立候補できた女性は、2008年の小池百合子現東京都知事のみである。
「女性活躍」というならば、まずはそこから改革すべきではなかったのか。
文/水無田気流

水無田気流・著、1650円(税込み)/日本経済新聞出版
女性の就業率は上がっても、ジェンダーギャップ指数はG7最下位の日本。#MeToo、ゲス不倫、ポテサラ論争、東京2020組織委員会、生理の貧困など近年のホットトピックを取り上げながら、ダイバーシティが定着しにくく変化に弱いこの社会の宿痾(しゅくあ)に迫ります。日経女性面の人気連載を大幅加筆のうえ書籍化。
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詩人、社会学者