―― 井田さんは全国の地方議会に陳情という形で働きかけ、多くの自治体が、国に選択的夫婦別姓の導入を求める意見書を出すという成果を上げています。今回の判決は、司法に対するアクションが一つ失敗した形ですが、井田さんが行っている立法府へのアクションの現状はいかがでしょう。

井田 状況は進歩しています。私たちが関わって実現した意見書82件以外にも、別の方々の働きかけで出された意見書が151件ある。私たちが使っている文面を参考にしてもらうなどして、活動の輪が確実に広がっています。

 地方議会も多くは前向きです。7月2日には埼玉県議会で、自民党県議団が起案した意見書が可決。私たちと一緒に自民党の役員陣が会見も開いてくれました。反対の国会議員50人から水面下で可決しないように圧力をかけられてなお、過半数を超える自民党県議団が「選択的夫婦別姓が導入されなければ悲しむ人がいるが、導入されて悲しむ人は一人もいない。誰も損をしない法改正だ」と、当事者側に立って法改正に向けた国会議論の活性化を強く求めてくれた。これは、動かない自民党内での議論を中から動かすのに大きな意味があると考えます。

 以前から選択的夫婦別姓推進の意見書を可決していた滋賀県議会や三重県議会は、今年も再度意見書を可決した。国はちゃんと動け、と重ねて念を押してくれたのです。市町村レベルでなく都道府県レベルでもこういう動きがある。知事でも東京都、埼玉県、千葉県、茨城県など、賛成表明をする人が増えているので、知事会にもぜひ声を上げてもらいたい。

 自民党も、地方議会では協力的な議員が多いです。つい先日、高市早苗議員が夫婦別姓に反対する趣旨の講演を、自民党女性局で行う予定でした。しかし地方の女性議員たちが「当事者の声も聞かない一方的な反対論の講演はおかしいだろう。せめて両論に」と抗議してくれたおかげで、当日になって議題が変更されたということがありました。講演が行われる予定の時点で、応援してくれている自民党議員が何人も、私に情報をくれるようになっています。

 自民党が次の選挙で議席を減らしたとしても、たぶん主要政党であることは変わらない。となると、この問題を人権問題だと理解する自民党議員が増えていき、自民党内部から改正の声が高まることは重要です。企業経営者らからの賛同も集まっており、国会へ経済界からの働きかけも強めていこうと考えています。

「海外婚」が事実婚夫婦の突破口に?

―― 自民党も変わってきているんですね。

井田 はい。安倍政権から菅政権になったことは、一つの転機でした。安倍政権では、党内で夫婦別姓への賛否を表明しにくいムードがあった。その延長線上で、20年12月に出された第5次共同参画基本計画では、もともと入っていた「選択的夫婦別姓」の文言が削られるなどの後退がありました。しかしその裏側では、「賛成」を表明する議員が増え、当事者側に立って法改正を進めてくれる議員連盟も立ち上がりました。先日、Twitterでは、賛成議連の役員90人が公開されていました。(編集部注:「自民党 選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」アカウントによる7月2日の投稿)

 今年は衆議院選挙という、私たちが意思表明できる機会があります。そこではぜひ、きちんと人権意識を持った候補者なのかどうかを見極めてほしい。一人ひとりの話を直接聞き、考えを確認して、国会に送り込む代表をちゃんと選ばないといけません。また、衆院選の日には、同時に最高裁判所裁判官の国民審査があります。私は先日の最高裁決定で「合憲」と判断した裁判官に「×」印を付けるつもりです。

 あと、今後、海外婚を選ぶ人が増えていくのではと思っています。

―― 海外婚?

井田 21年4月21日に、海外で別姓婚を行った映画監督の想田和弘さんと、プロデューサーの柏木規与子さん夫妻が、日本でも婚姻関係にあることの確認を国に求めた訴訟の判決がありました。日本の戸籍への記載は認められなかったので形式上は敗訴なのですが、「婚姻自体は有効に成立している」という判断も示されたのです。

 この判決に、事実婚の方々は大いに勇気づけられました。残る問題は戸籍という実務上の部分だけで、別姓婚自体は有効だという判決が確定したわけですから。海外婚を考える人は増えていくでしょう。

 状況は確実に前に進んでいます。訴訟だってこれ1件ではなく、いくつも行われている。第3次訴訟の原告も既に立候補されているそうです。だから、落胆はしていません。