「正しいメール」より「伝わるメール」を意識する

―― 企業側は、従業員がビジネスメールを習得するためどのようなアクションを取るべきでしょうか。

平野 従業員に均質な練習やOJTができるほうが望ましいですが、リソースを割けないこともあるでしょう。最低限、従業員が基本的な知識を得て、上司の監督の下、送信したメールを検証する機会を与えられるといいですね。基本的な知識は、本などでも十分です。

 また、テンプレートを与え過ぎないことも重要です。管理側は正解テンプレートを作りたくなってしまう。でも、テンプレートがあると安心してしまって、個人の思考を停止させがちです。一人ひとりが考える力を養わないと、円滑なコミュニケーションが取れなくなる可能性があります。

 事実、今回の調査では、週5日以上テレワークをしている人は、テレワークを全くしていない人よりメール1通の作成平均時間が長いという結果になりました。ビジネスメールだけで仕事を進める人ほど、テンプレートを使わず個別に対応しているのかもしれません。誤解のない表現か、伝わるメールになっているか相手を想像しながら作成していると推測できます。

テレワークとメールを1通書くのにかかる平均時間の関係/週に5日以上(n=297)6分21秒/週に1~2日(n=244)5分34秒/テレワークをしていない(n=567)6分3秒
週に5日以上テレワークをしている人のメールにかける時間が最も長かった(出典:日本ビジネスメール協会「ビジネスメール実態調査2021」)

―― 最後に、個人が意識すべきビジネスメールのスキルについて教えてください。

平野 大きく二つあります。

 一つは習慣化で対応していく部分。例えば以下のようなことです。

・土日や夜遅い時間にメールを送らない
・返信をためず、期限より余裕を持って返信する
・返信の催促は返信期限を過ぎたらすぐ行う

 メールの送信時間=労働時間と相手から期待されてしまうので、勤務時間外に対応してしまうとオンとオフが見えなくなります。当協会でも、労働時間外にはメールを送らないよう、スタッフに徹底しています。

 返信をためないことも重要です。すぐ返信することで「仕事が速い人」と印象付けられ、仕事がやりやすくなります。期限ギリギリに対応している人は、相手からリマインドを受けるなどしてパワーバランスが悪くなりがち。そこで、最低でも期限より1日早く対応するといいですね。

 また、研修の受講者から、返信の催促はいつしたらいいですかと質問がたびたびあります。

 メールは、相手に内容が届いているのかが不確かなコミュニケーション手段ですから、期限を1分でも過ぎたら催促してくださいと伝えています。催促を即座にする人ほど、相手にとっての優先度が高まるからです。忖度(そんたく)する必要はありません。期限を越えたらすぐ催促、期限を守れない人にはリマインダーを送る。これを習慣化すればいいでしょう。

 悪いように考え過ぎないことも大切です。返信がないことを、嫌われているなどと思い込まず、プラスに考えてください。返信を悩んでいるだけかもしれないし、たまたま忙しいのかもしれない。明確なリアクションがない限りずっとフォローしましょう。そうやって、3回、4回とフォローできるビジネスパーソンが、テレワーク下でも成功できるのだと思います。

 このように、一つひとつルールを作っていくと不安感がなくなり、ストレスなく仕事ができるようになります。

 もう一つは、伝わるメールを作成することです。伝わるメールに仕立てるには、以下の3点を意識するとよいですよ。

・パッと見て読みたくなるメール 行間を取っている、読みやすいレイアウト
・スラスラ読める 短文を意識し、箇条書きを効果的に使うメール
・読んでいて意味が分かる 文章として意味が分かる、6W3Hが網羅されている

 メールは熟読するものではなく、1秒でも早く読み終わるものが望ましいとお伝えしています。つまり、スクロールを往復せずに内容が理解でき、その後の読み手のアクションが明確な文章です。だからこそ、文章そのものよりも、全体を通じて読みやすいかどうかをまずはチェックしてください。

 情報の欠落があるメールに、わざわざ質問してくれる読み手は少ないと思います。あえて書いてないのか、自分が嫌われているのか、単に忘れているだけなのか。それをわざわざメールで質問すべきなのかと不安になるので、欠落している話題には触れたがりません。それでも仕事で必要なら質問してくれると思うのですが、その質問の回答にも不足があると読み手の不安はさらに募ります。

 ですから、情報の欠落がある人はビジネスメールが主流になっている現場から淘汰されるかもしれません。

 研修では、語尾など文章の細かいところにアドバイスを求められる傾向があります。しかし語尾よりも情報の欠落はないかを重視するほうが、より伝わるメールになります。

―― 一つのメールを作る法則を理解し、想像力を掛け合わせてメールを作ること、アクションを習慣化することが重要ですね 。

平野 はい。メールは1回で上手にはなりません。 どうやったら伝わるのか考え続けて試行錯誤していくのが、メール上達の近道です。メールもビジネスと同じく、常に改善の意識を持つことが大切ですね。

取材・文/渡部梓

平野友朗(ひらの・ともあき)
一般社団法人日本ビジネスメール協会 代表理事、株式会社アイ・コミュニケーション 代表取締役
1974年、北海道生まれ。筑波大学人間学類で認知心理学専攻。ビジネスメール教育・改善の第一人者として知られ、メールコミュニケーションの専門家。メールに関するメディア掲載1500回以上、著書32冊。メールを活用した営業手法には定評があり、メールのスキルアップ指導、組織のメールに関するルール策定、メールの効率化による業務改善や生産性向上などに数多く携わる。講演や研修、コンサルティングは年間150回を超える。近著に『そのまま使える!ビジネスメール文例大全』(ナツメ社)がある。一般社団法人日本ビジネスメール協会株式会社アイ・コミュニケーション ビジネスメールの教科書