2021年6月21日、遠隔地から操作する分身ロボットが接客するカフェ「分身ロボットカフェDAWN(ドーン)Ver.β」が東京・日本橋にオープンしました。操作するのは、寝たきりの人やさまざまな理由で現場に行けない人。プロジェクトの発起人でオリィ研究所代表の吉藤オリィさんは、幼少期に不登校を経験したきっかけで分身ロボットを開発しました。吉藤さんが「孤独の解消」に向けて歩んだ道のりや分身ロボットカフェの未来について話を聞きました。
きっかけは不登校の経験と脊髄損傷した親友との出会い
幼少期から病気がちだったという吉藤オリィさん。小学5年生のとき、入院したことを機に3年半ほど学校へ通うことができない不登校児になった。
「友人たちのように授業や学校行事に参加できず日々、深い孤独を感じていました。昼夜が逆転して気持ちがどんどんネガティブになり、食事がうまくできなくなったり日本語を忘れそうになったりしました。そのとき『どうして体が1つしかないのか。2~3つあればいいのに』と思ったことが分身ロボット開発の原点になっています」
その後、母の勧めで興味を持ったプログラミング学習やロボット製作にのめり込み、早稲田大学創造理工学部へ進学。オリィ研究所を立ち上げ、遠隔操作できる分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」の開発を始める。
研究に苦心していた2013年に出会ったのが、後に親友で秘書となる番田雄太さんだった。番田さんは4歳のとき交通事故に遭い脊髄(せきずい)損傷に。20年以上、寝たきりで過ごしていた。「まだOriHimeを製品化しておらず、会社の知名度もほとんどないときにFacebookのメッセンジャーで連絡をくれたのが彼でした」。メッセンジャーでやり取りをしていく中で「孤独」を抱えている者同士、意気投合。
吉藤さんは、顎を使ってパソコン操作ができる番田さんを秘書に登用した。番田さんは、分身ロボットの改善案を提示したり吉藤さんと一緒に講演会を回ったりするなど、吉藤さんの右腕として活躍した。
2017年に番田さんが亡くなった後も「彼ならどんな意見を言うんだろう、と考えながら研究していた」と話す吉藤さん。2018年にはALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が視線入力(目の動きだけでコンピューターを操作すること)で分身ロボットを操り、コーヒーを人に手渡すことに成功した。