日本のインティマシー・コーディネーターの手本をつくることが先決

―― 今後は日本でもインティマシー・コーディネーターの起用が増えていくでしょうか?

浅田 日本ではこれまで、センシティブなシーンの撮影は、現場の肌感覚で進行していました。実際、その場の空気や流れで最高のシーンが生まれることも多いでしょう。

 そこにインティマシー・コーディネーターが参加し、手を置く位置やキスの回数など、細かな動きについて俳優と確認するわけですから、やりにくいと感じる監督やスタッフはいると思います。

 日本でインティマシー・コーディネーターを増やしていきたい思いは、強くあります。ですが、それにはまず、自分が経験と実績を増やし、日本の作品づくりの現場に合うコーディネートの手本をつくっていくことが先決です。

「日本でインティマシー・コーディネーターを増やしていくためには、まずは自分が経験と実績を増やし、日本の作品づくりの現場に合うコーディネートの手本をつくっていくことが先決です」
「日本でインティマシー・コーディネーターを増やしていくためには、まずは自分が経験と実績を増やし、日本の作品づくりの現場に合うコーディネートの手本をつくっていくことが先決です」

 日本の映像作品にインティマシー・コーディネーターが起用されたのは、2020年に配信された、Netflix映画『彼女』からです。私が担当した作品は、進行中のものを含めて、まだ3本しかありません。その3本でさえ、コーディネートの内容や課題が違いましたし、米国のマニュアル通りにいかないことも出てきました。

 例えば、米国では俳優の意思を確認し、同意を得ることが当たり前です。だからといって、空気を読んだり、あうんの呼吸で分かり合えたりする文化の日本で、米国と同じように確認ばかりを要求したら、場の雰囲気を悪くしてしまいます。私たちは、監督の心理や仕事の状態を把握し、相談するタイミングを計ることも必要ですし、事務的な確認作業になり過ぎない気配りも大切です。

 インティマシー・コーディネーターは、俳優が安心して演技できると同時に、制作側も安心して作品づくりに打ち込めるための存在でなければいけません。

 日本の作品づくりの現場では、インティマシー・コーディネーターは新参者です。日本の現状を理解し、日本スタイルをつくっていくことが、日本人初のインティマシー・コーディネーターとなった私の役割だと思っています。

取材・文/力武亜矢(日経xwoman) 写真/洞澤佐智子

浅田智穂
浅田智穂 あさだ・ちほ/1998年、ノースカロライナ州立芸術大学卒業。帰国後、エンターテインメント業界で通訳者として活動。日米合作映画『THE JUON/呪怨』(監督:清水崇)や、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』など海外ミュージカルの日本版において、監督や演出家、振付家、ダンサーやキャスト間の通訳を務める。2020年、アメリカのIntimacy Professionals Association (IPA)にてインティマシー・コーディネーター養成プログラムを修了。IPA公認の下、活動開始。Netflix映画『彼女』において、日本初のインティマシー・コーディネーターとして作品に参加。現在は、22年以降配信予定の2作品の撮影に参加中