日本初の女性総理が誕生したという設定の映画『総理の夫』(2021年9月23日公開)で、主人公の相馬凛子役を演じる中谷美紀さん。女性の社会進出や夫婦の役割分担、出産や育児をしながら働く難しさなど、タイムリーな社会課題を描く映画に出演するにあたり、さまざまなことを考えたといいます。2本にわたるインタビューの前編では、働く女性としての中谷さんのキャリア観や、ジェンダー観について聞きました。

【中谷美紀さんインタビュー】
前編・中谷美紀 「わきまえない」態度で失敗した経験も ←今回はココ
後編・中谷美紀 年齢にとらわれず誰もが平等な社会が理想

メルケル首相のスピーチを参考に

日経xwoman (以下、――) 映画『総理の夫』では、女性総理となる主人公の凛子を演じています。

中谷美紀さん(以下、中谷) 「子どもを産んでもキャリアを諦めることなく、誰もが生き生きと働き続けることのできる社会」は、皆が願うことではないでしょうか。私自身、そうした社会を理想として思い描きながら、これまで何もアクションを起こしてきませんでした。そんな人間としては、今回、凛子がその願望をすべてかなえてくれたことがうれしく、この役を演じることはとても幸せでした。

中谷美紀
中谷美紀さん

―― 日本で前例のない女性総理という存在を、どう演じたのでしょうか。

中谷 確かに日本では前例がありませんが、世界各国を見渡すと、女性トップの活躍が目立ちます。アジアでは台湾に蔡英文総統がいますし、ヨーロッパにはドイツのアンゲラ・メルケル首相や欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長がいます。ニュージーランドに至っては、ジャシンダ・アーダーン首相が在任中に出産して産休を取得しています。

 そうしたトップたちの様子をニュースや新聞などで目にする中で感じたのは、アンガーマネジメント(感情のコントロール)がしっかりしているなということでした。女性がリーダーとして人々を率いていくには、常に冷静な対応を心掛けることが大切なのだと感じ、凛子が発言するシーンを演じる際は、できるだけ淡々とした口調を意識しました。

 なかでも、コロナ禍においてメルケル首相がドイツ国民に直接語り掛けたスピーチは、とても参考になりました。普段は科学的見地に基づいて冷静にコロナ対策を呼び掛けている一方、2020年12月の連邦議会では、珍しく感情をあらわにして、国民が真剣にコロナ対策に向き合うよう、訴えかけたのです。その姿に心を揺り動かされましたね。いつも冷静であまり感情を表に出さない人だからこそ、体を震わせて訴えかける瞬間が、これほどまでに聞く人の胸を打つのだということを学びました。