オートクチュールではなく、既製服を作りたい

日経xwoman 今後、どのような作品を撮っていきたいと思いますか?

山戸 どんな世界でも、オートクチュールを作る素晴らしさはあると思います。それは美的な価値基準であれば頂点ですし、最も高価で、評論も集まります。けれどもやはり私は、できるだけたくさんの人が手に入れられる既製服を作ってゆきたいと考えています。

 例えばお茶の葉を作るとして、「最高級のお茶の葉を作りたい」という方ももちろんいます。一方で、「お茶は生活の中で飲むもの」であり、「お茶を作ることで人々の生活を豊かにしたい」という考えもあり得ます。どちらが正しいという話ではなく、いろいろな人がいるということ自体が豊かですよね。

 私は生活の中にあるドラマや映画を作りたい。もしかしたら、その作品は、ある一時だけ必要なものかもしれない。けれど、その後忘れ去られていったとしても、ご自身の中で感じ、考えられたことだけは、いくら服を着替えても脱げないような、作品を鑑賞した方の血肉になってゆきます。いつかは着なくなってしまう服かもしれないけれど、服自体よりも、その人の身体や人生や生活を「美しい」と思ってもらえるところに、作品を届けたいと思います。

 地方に暮らしていると、ショッピングモールしか遊びに行ける場所がない場合がほとんどで、友達と千円札一枚を払って、モールの中のシネコンで映画を見るということが、地方の子の大きな娯楽として根付き、身近な文化活動の一つになっています。地域や世代によっては、テレビにもその力や切実さはあると思います。

 自分自身の人生の中で、映画芸術に打ち込むのと同じくらい、もしかしてそれよりも強く、現在的な人の苦しみを引き受ける大衆芸術について考えつづけたいです。今この時代に生きているからこそ見える光景を、いつか捨て去られてしまうべきたくさんの課題とともに、映してゆけたらと考えています。

「批判されながらも自分の決定に責任を持つこと、男性が先に引き受けてくれたものを引き取ることが、これから女性に不可欠な力なのだと思います」(山戸さん)
「批判されながらも自分の決定に責任を持つこと、男性が先に引き受けてくれたものを引き取ることが、これから女性に不可欠な力なのだと思います」(山戸さん)

構成/小田舞子(日経xwoman) 写真/稲垣純也