では、一方の「蓄える」はどうか。 「こちらは、飢えに備える仕組みといえます」(酒井教授)。食べ物に余裕があるときエネルギーを蓄えておき、飢えたときにそれで食いつなぐのだ。

【ためこむ脂肪】白色脂肪細胞とは…?

(1)脂肪滴
脂肪を蓄える小胞。太った人の白色脂肪細胞では、脂肪滴も非常に大きくなり、細胞全体も巨大化する。これがメタボ系の生活習慣病の原因だという。

皮下脂肪も内臓脂肪も、白色脂肪

皮下脂肪も内臓脂肪も、白色脂肪

 脂肪組織の大部分を占め、通常「体脂肪」といえばこれを指す。「余ったエネルギーの備蓄」という、体脂肪の中心的役割を担う。また、レプチンなどのホルモン類を放出し、食欲や性ホルモンの働きをコントロールしている。

本来は飢えに備える

いま、こんなざんねんなことに!

飽食で細胞が巨大化し、メタボの原因に!

飽食で白色脂肪細胞が巨大化し、メタボの原因に!

 白色脂肪細胞は本来、飢えを克服するためのエネルギー備蓄器官。だが、脂肪が常時ぱんぱんにたまった状態が続くと、脂肪組織の内部で炎症が慢性化。それが動脈硬化や生活習慣病の誘因と考えられている。

2種類の脂肪細胞の役割

 つまり、2種類の脂肪細胞は、「寒さ」と「飢え」という2大脅威への備え。脂肪は、厳しい自然環境を生き抜くためのサバイバル装置なのである。

 もっとも、現代は、飢えや寒さとは縁遠い。それは幸せなことだが、そのために脂肪細胞は本来の働きを見失い、ざんねんな状態に陥ってしまった。とりわけざんねんなのが白色脂肪細胞。慢性的にたまった脂肪が炎症を引き起こし、メタボなどの生活習慣病を招いているのだ。

 「動物の体は、過剰栄養を想定していない。飽食の環境に適応できないのです」(酒井教授)。本来の能力を発揮できず、一番ざんねんな思いをしているのは、脂肪細胞自身かもしれない。

酒井寿郎
東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野、東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野 教授
酒井寿郎 1988年、東北大学医学部卒業。2009年から東京大学教授。2017年から東北大学教授を併任。遺伝子の後天的修飾「エピゲノム」が、生活習慣病や肥満の形成に深く関わっていることを突き止め、研究を進めている。

取材・文/北村昌陽 イラスト/SANDER STUDIO