もうひとつの作用の「発熱」に関しても、脂肪細胞のすごい働きぶりを紹介しよう。
体が長期間、寒さにさらされると、白色脂肪細胞の中から、褐色脂肪細胞と同様の発熱作用を持つ新たな細胞が、生まれてくるのである。
【すごい事実2】寒さで新たに「ベージュ脂肪細胞」ができる
寒い環境に長くさらされていると、白色脂肪細胞の中から、褐色脂肪細胞と同様の発熱能力を持つ「ベージュ脂肪細胞」が、新たに生まれてくる。寒さに適応すべく、体の発熱能力が後天的に強まる仕組みがあるわけだ。
「ベージュ脂肪細胞」と呼ばれるこの細胞は、褐色脂肪細胞よりも長期的なスパンで働く(下図)。
【すごい事実3】
「褐色」は急な寒さに。「ベージュ」は長期間の寒さに対応
褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞の違いは何か。「褐色」は生まれたときから身に備わっており、寒さを感じたときにまず働く。一方、「ベージュ」は、寒さが長期間続くと新たに生じ、寒さに強い体質へと切り替える。
いわば「褐色」が急場の寒さ対策なのに対して、「ベージュ」は、寒さに強い体質へと体を変えるのだ。
ベージュ細胞が増えた人は、脂肪がどんどん燃え、肥満やメタボになりにくいという。そのため現在、ベージュ細胞を人工的に増やすことを目指して、世界中で研究が進んでいる。そんな技術が開発されれば、脂肪細胞が抱えているざんねんな状況も、変わっていくかもしれない。
酒井寿郎
東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野、東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野 教授
東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野、東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野 教授

取材・文/北村昌陽 イラスト/SANDER STUDIO