世界の最先端を体感できる都市、ニューヨーク。この街に1996年から在住し、ビジネス・コンサルタントとして第一線で活躍する渡邊裕子さんの最新リポートをお届けします。

(上)新型コロナで加速 NYに見るファッション小売業の落日 ←今回はここ
(下)NYでデパートの死が相次ぐ…バーニーズさえ閉店した

 Jクルー、ブルックス・ブラザーズ、ニーマン・マーカス、ANN TAYLOR、Muji USA(良品計画の米子会社)……何のリストか、お分かりだろうか。

 これらは、新型コロナ危機が始まって数カ月のうちに経営破綻し、米国で「チャプター11(米国連邦破産法11条)」を申請したブランドの例だ。チャプター11は、倒産した会社の更生手続きを扱う条項で、日本の民事再生法に近い。旧経営陣が引き続き経営しながら負債の削減などの企業再建ができる。

ファッション・ブランドの破綻、第1号はJクルー

 最初はJクルーだった。2020年5月、ニューヨークに本社を構えるこの会社の破産法申請が報道されたときは、ちょっとした衝撃だった。

 同社は1983年に創業(前身は1947年に設立)し、当初は店舗を持たず、カタログ・ビジネスのみで人気を得た。1989年、ニューヨークに第1号店を出店。今日では、別ブランドで展開しているMadewellを含めると、全米で300店以上の店舗を構える。「ラルフ・ローレンの安い版」ともいわれるこのブランドは、高すぎず安すぎず、クリーンで品がよく、色使いも爽やかで、英語では「Preppy(名門私立高校の学生風、良家のお坊ちゃん・お嬢さん風)」と表現される。

 近年ではミシェル・オバマのお気に入りとしても知られる、とても「米国的な」ブランドだ。ただし、2011年に実施したレバレッジドバイアウト(LBO。企業買収の手法の一つ)に伴う累積負債が膨らんだこと、他社との競合、ブランドとしてのクールさを保つのに苦戦していたこと、デジタル化の遅れなどから、この数年経営不振が続いていると報じられていた。

 とはいえ、Jクルーの経営破綻は、愛用者ならずとも驚きだったと思う。これは、コロナ禍の打撃を直接の理由とする大手アメリカン・ファッション・ブランドの破綻第1号であり、多くの人々は、今後このようなケースが次々に起こるのではないかと予想したはずだ。そして、実際にその通りになった。

ニューヨークのファッション・ブランドの破綻は、Jクルーから始まった(写真:AP/アフロ)
ニューヨークのファッション・ブランドの破綻は、Jクルーから始まった(写真:AP/アフロ)