世界の最先端を体感できる都市、ニューヨーク。この街に1996年から在住し、ビジネス・コンサルタントとして第一線で活躍する渡邊裕子さんの最新リポートをお届けします。

(上)大谷翔平がなぜ今、米大リーグで最も人々を熱狂させるか
(下)世界で活躍する日本人・日系人選手が人々に与える影響 ←今回はここ

変化するゴルフ界:松山・笹生・モリカワ

2021年4月に米ジョージア州のオーガスタ・ナショナルGCで行われたマスターズ・トーナメントで、日本勢として初優勝を飾った松山英樹選手。(写真:AP/アフロ)
2021年4月に米ジョージア州のオーガスタ・ナショナルGCで行われたマスターズ・トーナメントで、日本勢として初優勝を飾った松山英樹選手。(写真:AP/アフロ)

 上編「大谷翔平がなぜ今、米大リーグで最も人々を熱狂させるか」では、野球界に注目したが、野球以外の分野でも、米国ではこのところ、日本人、日系人選手のグローバルな活躍が目立つ。テニスの大坂なおみ選手はもちろんのこと、NBAで活躍する八村塁選手(ウィザーズ)、渡邊雄太選手(ラプターズ)、ゴルフの松山英樹選手、笹生優花選手、コリン・モリカワ選手などだ。

 中でも、この春、コロナ禍で社会全体がパッとしない中、松山英樹選手がマスターズで優勝したのは、米国でも大きなニュースだった。アジア生まれの選手として史上初のマスターズ優勝ということも注目された理由の一つだ。他のスポーツが続々とダイバーシティの方向に舵(かじ)を切る中、ゴルフはいまだ圧倒的に白人が支配するスポーツの一つと見られている。しかも、彼は、よりによってマスターズという、保守的な場所で開催される保守的なトーナメントで勝った。

 マスターズが毎年開催される米ジョージア州のオーガスタ・ナショナルGCは、その白人男性中心主義な閉鎖性がしばしば批判され、それが原因でスポンサーを失ったりもしてきた。初めて黒人男性が会員になれたのは1990年、女性が初めて会員として認められたのは、つい2012年のことだ(元国務長官のコンドリーザ・ライス氏と、金融家のダーラ・ムーア氏という二人の女性が入会を許された)。

 そして「風と共に去りぬ」の舞台であるジョージア州は、南北戦争では奴隷制廃止に反対して戦い、奴隷解放令後も人種隔離政策を取り続けた州の一つだ。一方で、キング牧師を生み、公民権運動の戦いのベースとなった地でもある。また、昨年の大統領選挙、今年1月の連邦上院議員選挙の決選投票のいずれもにおいて(歴史的パターンを裏切って)民主党が勝利し、全米の注目を集めた。

 マスターズの直前、4月初旬にもジョージア州が話題になる出来事があった。大リーグが、3カ月後に迫ったオールスター・ゲームとドラフトの開催地をジョージア州のアトランタから変更すると発表したのだ。理由は同州の新しい投票制限法であったと見られている。変更が発表されたのは、この新法が人種的少数派の投票を妨げる可能性があると批判の声が高まっていたまさにその時で、大リーグのコミッショナーは「スポーツとしての我々の価値を示す最善の方法として、各方面との協議の結果、開催地変更を決定した」と述べていた。

 米中西部ミネソタ州ミネアポリスで昨年5月に起きた黒人男性ジョージ・フロイド氏・暴行死事件以来、大リーグは、NBA、NFLなどと同様に、人種差別を明確に糾弾するようになっている。それを考えると、この決断は納得のいくものだった。この結果、今年のオールスター・ゲームは、コロラド州デンバーで開催されることとなった。

 そのような文脈の中、松山選手というアジア人男性が、白人中心主義の象徴のような場所で優勝したわけだ。4月は、コロナ禍の中、米国各地でアジア系に対する暴力が深刻化していた時期でもあった。彼の優勝を伝える報道を紹介したい。

「世界の問題を解決するわけではないけれども、アジア系へのヘイトが高まる今、松山の勝利は、日本の人たちを励ますだろう」(マイアミ・ヘラルド)

「松山英樹は日本人だが、彼の勝利はアジア系米国人たちにとって重要だ」
(英紙ガーディアン)

 上記のように、単にスポーツの話題としてではなく、目下の社会問題や米国に住むアジア系の人々の思いと絡めて報じるものが目に付いた

 実際、私の周りでも、普段ゴルフを見ない日本人の友人たちですら、この時はもれなくスコアに注目し、「勝ちそう!」「勝ったよ!」と実況中継状態で、SNSでは興奮のメッセージが飛び交っていた。米国人の友人たちからも「おめでとう!」「歴史的快挙だね!」と言われたりした。マイアミ・ヘラルド記事のタイトルが言うとおり、ゴルフが世界の問題を解決するわけではないけれど、シフトは確実に起こっているのだと感じる出来事だった。