世界の最先端を体感できる都市、ニューヨーク。この街でビジネス・コンサルタントとして活躍する渡邊裕子さんが、米国から見た日本をリポートします。今回は、米国の性犯罪事件の被告から寄付を受けていたMITメディアラボで当時所長だった人物が一時デジタル庁の事務方トップ候補に挙げられたことを基に、日本の性犯罪に対する認識の低さについて指摘します。

あっけなさ過ぎる撤回に透けて見える認識

 2021年9月1日、デジタル庁の事務方トップである「デジタル監」として、経営学者で一橋大学名誉教授の石倉洋子氏が就任した。「デジタル監」は事務次官級の特別職だ。その最初の候補として名前が挙がり、8月6日に「最終調整中」と報道されたのは、石倉氏ではなく、マサチューセッツ工科大学メディアラボ(通称:MITメディアラボ)の元所長・伊藤穰一氏だった。彼の名前が浮上したことに、私はとても驚いた。

伊藤穰一氏(写真 ZUMA Press/アフロ)
伊藤穰一氏(写真 ZUMA Press/アフロ)

 2年前に米国を揺るがした性犯罪事件「エプスタイン事件」のジェフリー・エドワード・エプスタイン被告からMITメディアラボが寄付を受けていたことが明るみになったことは記憶に新しい。当時MITメディアラボ所長を務めていた伊藤氏は、MITメディアラボはじめ教授職、当時勤めていた多くの役職の辞任に追い込まれた人物だ。

ジェフリー・エドワード・エプスタイン被告(写真 Splash/アフロ)
ジェフリー・エドワード・エプスタイン被告(写真 Splash/アフロ)

 彼が「デジタル監」の候補だと報じられると、SNSなどで世論の強い反発が起きた。その影響か、「最終調整中」の報道から間もない18日、政府は伊藤氏の起用を見送ると発表した。

 起用の見送りは当然だと思ったが、同時に、あまりのあっけなさに拍子抜けした。注目の公職の候補者にしたからには、官邸はじめ関係者は、伊藤氏のバックグラウンドを調べ抜いた上で彼を推し、反対の声を説得する準備をして臨んだのでは? という疑問が残った。政府は、エプスタイン被告が関わっていたとされる犯罪の深刻さや、伊藤氏の責任を軽く見積もっていたのではないか。

 「大したことではない」と。

 9月7日にデジタル庁の有識者会議設置が発表されると、構成員に伊藤氏が入っていた。結局、彼を推した人々は、何がまずかったのか本当には分かっていないのだろう。

 そもそもエプスタイン被告とは何者で、伊藤氏はなぜMITメディアラボを追われることになったのか。