世界の最先端を体感できる都市、ニューヨーク。この街でビジネス・コンサルタントとして活躍する渡邊裕子さんが、米国の今と、米国から見た日本をリポートします。今回は、2021年11月2日米国各地で実施された地方選挙に見る多様性の実現への様子と、日本の若者の政治参加意識についてです。
(上)米国と比べて分かる「日本の若者は自民党支持」の独特さ ←今回はココ
(下)米国の若者が幼少期から受けてきた政治参加教育とは
2021年11月2日、米国各地で地方選挙が行われた。全米でもっとも注目されたのは、バージニア州の知事選だ。20年の大統領選では、バージニアはジョー・バイデン氏がドナルド・J・トランプ氏に10ポイントの差をつけて勝利した地だ。
この知事選は、来年の中間選挙の行方を占うものと考えられ、最後の数週間は、バラク・オバマ元大統領、カマラ・ハリス副大統領はじめ民主党の大物たちが現地に赴き、総力を投入してキャンペーンしていた。
しかし、結果的には共和党候補で元投資ファンド幹部のグレン・ヤンキン氏が勝利を収め、民主党にとっては痛い敗北となった。
ただ、この日の民主党は、いくつかの象徴的な勝利も収めた。ボストン市長選では、台湾系移民2世の市議であるミシェル・ウー氏が当選を決めた。36歳の弁護士である彼女は、ボストン史上初めての女性・非白人の市長となる。ハーバード大学法律大学院でエリザベス・ウォーレン氏の薫陶(くんとう)を受け、12年の選挙の際はウォーレン氏のキャンペーンで働いた。13年、ボストン市議に初当選。16年からは女性として、またアジア系米国人として初めて同市議会の議長を務めた。民主党の中でも Progressive(先進的)と呼ばれるタイプだ。
ボストンは、民主党の牙城で、数多くの大学に多様な人種が集まり、先進性を持つリベラルな地だ。その一方で、北東部エリートの町としての伝統的・保守的な面も根強くあり、これまで白人男性しか市長に選出されたことがなかった。今回の市長選は、すべての有力候補が非白人、その大半が女性ということで、社会の多様性、世代交代を象徴するものとして注目を集めていた。
ウー氏のライバル候補だった市議のアニサ・エサイビジョージ氏(民主党)も、チュニジア系の父とポーランド系の母を持つ移民2世の女性だ。勝利スピーチの中でウー氏は「息子に『男の子でも市長になれる?』と聞かれた」と述べて、会場の笑いと喝采を受けた。
同じく北東部コネティカット州のスタンフォード市でも、初の女性市長が誕生した。この選挙では、プロ野球のロッテや大リーグのニューヨーク・メッツで監督を務めた、同市出身のボビー・バレンタイン氏(無党派だが、共和党支持者として知られる)も出馬したが、キャロライン・シモンズ氏に僅差で敗れた。
35歳のシモンズ氏は、同市史上最年少の市長候補だった。08年にハーバード大学を卒業後、オバマ大統領の着任準備をサポートする政権移行チームを経て、国土安全保障省に勤務、15年からコネティカット州下院議員を務めた。民主党の若手ホープとみなされている。
オハイオ州シンシナティ市でも、初のアジア系市長が誕生し、歴史を創ったと話題になった。66%の得票率で余裕の勝利を収めたアフタブ・ピュアバル氏は39歳。移民2世で、父親はインド出身、母親はチベットから難民として米国に渡って来たという。東海岸や西海岸に比べるとはるかに保守的な中西部において、唯一のアジア系市長が誕生したということで、これまた話題になった。
20年から始まった新型コロナウイルスによる危機は、米国社会が多様であるが故に抱える複雑さ、脆弱さを示し、黒人やアジア系に対する人種差別の根深さもさらけ出した。しかし、このたびの選挙における若手や女性、人種的マイノリティーの躍進は、米国社会が、それでもなお、より多様性を当然のものとする方向に変わりつつあること、その流れは止められないことを、実感させるものだったと思う。