生きざまを見せる

 人はなかなか動かないという前提の元、それでも思いを伝えるには自分の生きざまを見せて伝える必要がある。

 「生きざまとは、言葉の使い方や話す勢い、目ヂカラ、熱意や感情、声の出し方など自分のすべて。『自分を見つめ直し、相手に何を伝えたいのか』という生きざまを、自身が理解した上で、全力で思いをぶつけます。すると、相手も『この人は本気で伝えようとしているんだ』と姿勢を正すようになります」

 「生きざま」という言葉に身構えてしまうかもしれないが、本来は一人ひとりが持っているもの。「生きざまなんて見せるのが恥ずかしい……」と思ってしまうと、無意識に「自分らしさ」まで消してしまうことにもつながる。

 一見クールでフラットな姿勢を演出できるかもしれない。しかし伊藤さんは、「全力で相手に思いをぶつけないと、思いは伝わりません。ただ決められた文章を読むだけでは、感情のないAIアナウンサーです」と断言する。実際、そういったプレゼンをさせようとする会社は多いそうだが、「それでは人の心は動きません。相手にも見透かされます」

前提条件を揃える

 「プレゼンをしても、どうも話がかみ合わない」という場合がある。言葉を尽くしても伝わらない……そんなときは、お互いの前提条件が合っていないケースが考えられる。話の骨組みが違う、または事実共有が曖昧だと話が空中戦になってしまうのだ。

 最後のポイントは、意識を合わせるために、前提となる条件や事実関係を共有しておくこと。これがあるかなしかで、プレゼンの進行が変わってくる。

 周知の事実だと思っていたことが相手にとってはそうでないかもしれない。こちら側にとって当たり前の前提が相手にとっては未知であるかもしれない。これまでの3つのポイントを実行してもうまくいかないプレゼンは、ここが共有できていない可能性があるので、丁寧にチェックしよう。

 今でこそ、伊藤さんはプレゼンの達人だが、意外なことに以前は人前で話すことが苦手だったという。

 「若い頃は人前で話すことが苦手で、資料ばかり作っていました。それでも人前で話さないといけない状況になると、やっぱり全然伝わらなくて。『これではまずい!』と思って自分なりに訓練しました。そこで、試行錯誤しながら、徐々にロジックと感情を混ぜて話すようになりました」

 現在54歳の伊藤さんだが、自信をもってプレゼンできるようになったのは40代に入ってから。

 「人はいつでも変われます。特にプレゼンは才能ではなく、日々の訓練で鍛えることができます」

取材・文/松永怜 写真/PIXTA