新型コロナウイルスの流行、頻発する地震や火山の噴火、大型台風などの気象災害――超想定外の時代を生き抜くためには「今までの学びや成功体験を捨てる必要がある」と京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんはいいます。あえて「成功体験を捨てる」とは、どういうことなのかを聞きました。
成功体験に固執すると、縮小再生産を繰り返すだけに
日経クロスウーマン編集部(以下、――) 前回は、これからの時代には「成功体験を捨てる学び」が大切だというお話を伺いました。しかし、「あのやり方で成功した」という体験は本人にとっては輝かしい記憶ですね。それを捨てるのは難しいようにも思います。
鎌田浩毅さん(以下、鎌田) この場合の「捨てる」とは、「これまでの成功体験や知識を全部捨てろ」ということではありません。成功体験の二番煎じから次の成功は難しいんですよ。よって、柳の下の2匹目のドジョウを狙うのをやめる。縮小再生産をやめて「連続性をいったん断ち切ろう」という意味です。
例えば、過去に食事制限をしてダイエットに成功したとしましょう。また次も同じようにダイエットをしようとして「食べること」に意識を集中すると、絶食などの無理をしてはリバウンドを繰り返してしまう。そこから抜け出すためには、「食べること」以外に関心を持つ必要があるのです。

―― 例えば、何か新しいスポーツに挑戦してみるといったことでしょうか?
鎌田 スポーツもいいですが、「これをしたら自分のためになるはずだ」と結果を予想して行うよりも、何も考えないブランク(空白)の時間をつくって、旅行でも音楽でも偶然出合ったものにシフトしていくほうがいいですね。次から次へ新しい関心を自分自身に持ち込むことで自然と「食べること」への関心が薄れていきます。僕はこの方法を「押し出し法」といっています。自分の足りない部分に注目せずに、他のものを取り入れることで意識から押し出していく「究極のプラス思考」です。
―― 「捨てる」のは抵抗があっても、「押し出す」なら取り入れやすそうです。
鎌田 ただ、ここが少しややこしいポイントなのですが「成功を捨てる」ことで「成功を期待する」のはやめてください(笑)。成功を期待せずに、次から次へと新しいものを取り入れてみましょう。大切なのは、過去の成功をいったん棚上げにして、よそから来るものにオープンマインドでいること。そのほうが面白い人生が開けていくはずです。