新型コロナウイルスの流行、頻発する地震や火山の噴火、大型台風などの気象災害――「VUCA WORLD(見通しの立てにくい社会)」といわれる現代を生き抜くには、「実は時代を超えても変わらない『古典』を読むのが効果的」だと京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんはいいます。古典を読む4つのメリットについて聞きました。
超想定外の時代だからこそ古典に学ぶ意味がある
日経xwoman編集部(以下、――) 第3回までは「超想定外の時代」を生き抜くため、新しい学びについて聞きました。ここで改めて、古今東西にわたって不変の勉強法である「読書」について教えてください。
鎌田浩毅さん(以下、鎌田) 「VUCA WORLD(見通しの立てにくい社会)※」といわれる現代を生き抜くには、時代を超えても変わらない「古典」を読むのが効果的だと思います。僕は古典には4つのメリットがあると考えています。
まず1つは「未来に対するビジョンが得られる」こと。なぜなら「過去は未来を解く鍵」だからです。僕の専門である地球科学も過去の詳細な記録から地震や噴火を予測します。このように過去の出来事を知れば、未来を予測できるのです。
2つ目は「現代を読み解くキーワードが得られる」ことです。過去を知り、未来のビジョンが得られると、その中間点である現代の姿が見えてきます。室町時代の能役者である世阿弥の言葉に「離見の見(りけんのけん)」があります。「自らの体を離れた客観的な目線から、自分の姿を見る」という意味です。未来や現代を「離見の見」するには、過去の古典が役立ちます。
―― 過去という視点から、未来と現在を考察できるのですね。
鎌田 そうです。古典の著者と僕たちとは生きていた時代はもちろん、場所、言語、歴史的な概念や常識が違います。それを超えて古典を理解することで、自分とは異なる地域の人や、性別や年代の違う人を理解しようとするコミュニケーション技術が磨かれます。そうすると3つ目のメリット、「本質をつかむ訓練ができ、どうでもいいことに振り回されなくなる」も大いに期待できます。
4つ目は「過去の偉人の生涯を追体験できる」。著者の人生を知り、そこから学べば、自分自身もよりよい生き方ができると思います。

―― しかし、現代は「超想定外の時代」です。それでも何百年、何千年前の古典が役立つのでしょうか?
鎌田 もちろんです。なぜなら古典の著者たちは、彼らにとって「超想定外」である当時を生き抜いたのですから。例えば英国の首相・チャーチルは「超想定外の事態」である第2次世界大戦に勝利しています。
チャーチルは、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』などの古典から学びを得たといわれています。よってチャーチルの『第二次大戦回顧録』を読むことで、彼の読んだ古典にも知識を広げていくことができます。