襟首をつかまれて警察に突き出されたことも
池上 それに関しては、私もNHKの社会部時代に忘れられない失敗をしました。人質立てこもり事件があり、亡くなった方もいた。そのなかで無事解放された人質の女性の家を訪ねて「話を聞かせてください」と言ったら、その夫に「テメェ、他の人が殺されてるのに」って、襟首をつかまれて交番に突き出されたのです。
——それが記者の仕事。どうすればよかったのですか?
池上 いきなり「話を聞かせてください」が失敗だったのです。まず言うべきなのは「こんな遅くにすみません」「大変でしたね」ですよね。若くて経験のない当時の私には相手がどういう思いでいるかを想像する共感力が足りなかったのです。
増田 私がすごく教えられたのは子どもへのインタビューです。番組づくりで子どもたちに話を聞く際、無意識のうちに欲しい答えを言ってもらえそうな質問をしていました。その施設の方に「増田さん、もっと待ってあげなきゃ」と言われて目が覚めました。うまく言葉にできる子ばかりではないのですよね。番組優先の考えでいると、テレビに出てくるのは、賢く話せる子ばかりになりがちです。
池上 まずは、しゃがんで子どもの目線の高さになって聞くことですよね。そして増田さんが言う通り、聞きたい答えがあっても急がない。そうすると、期待した以上の、思いもよらない話が出てくることもある。インタビューの経験を積まないとなかなかできないことだよね。
——お2人が大人から子どもまで誰にでも話を聞けるようになったきっかけは?
池上 NHKに入局直後、松江放送局で島根県警の担当記者をしたのですが、刑事たちに相手にされなくて。頑張って雑談をしても、ネタが欲しいという気持ちが見えてしまうのか、距離が縮まらない。今日は何を話そうかと考えると、毎朝、警察署の入り口で足がすくむほどでした。東京に来て社会部でもまれて、『週刊こどもニュース』で子どもたちに四苦八苦するうちに雑談ができるようになってた。
増田 それが今では!
池上 スーパーマーケットのレジで並んでいるときに、他の人に話しかけちゃうくらい、雑談力が身に付いた。えらい苦労をしましたけどね。
増田 私も数をこなしたことで聞く力がついた気がします。NHKラジオのインタビューの仕事のとき、当時は自分で録音してきたテープをハサミで切ってつないで編集をしていたのです。インタビューを何度も聞いて、ここを使おう、あそこを残そうとやり続けた結果の積み重ねもあるのかなと思います。
【1位】価値観や世代の違う人とも会話が弾む…41.3%
【2位】話を脱線させずに必要なことを聞き出せる…34.7%
【3位】雑談で場を和ませる…33.5%
【4位】悩みやホンネを引き出せる…29.9%
【5位】聞きづらいことも質問できる…27.5%