ようやく海外旅行に制限がなくなった今、大きく変容している世界を知る旅にするための視点を、池上さん、増田さんの2人に指南してもらいました。
経済発展のパワーと戦争の現実を知るベトナム
編集部(以下、——) お2人の最新刊『世界の歩き方』(ポプラ新書)は今起こっている変化や歴史を知ることで旅が楽しくなる1冊です。今回は編集部のリクエストで3カ国についてお話しいただきます。まずはベトナムから!
増田ユリヤさん(以下、増田) 旅先としてとても人気が高い国ですが、実は日本で働く外国人の数が最も多い国でもあるんですよ。
池上彰さん(以下、池上) 2020年の統計で、中国を抜いて1位になりました。リニア中央新幹線の取材で名古屋の工事現場に行ったとき、複数の言語で書かれた注意書きは、日本語のすぐ下がベトナム語でしたよ。勤勉な国民性で国民の平均年齢は31歳。東南アジアで最も経済成長しています。
増田 ホーチミンは高度経済成長期の日本を思わせる活気にあふれていて、国の政治的意図を伝える「プロパガンダ看板」がなければ、社会主義国だと気がつかないくらいです。
池上 政治体制は社会主義で経済は資本主義。中国と同じです。国の南北を14年半にわたって分断したベトナム戦争が1975年に終わり、南北ベトナムが統一されて社会主義国になったことで、一時経済がすっかり停滞してしまった。これじゃいけないと86年に「ドイモイ(刷新)」政策がスタートし、「自由に金もうけをしていいよ」となってから、爆発的な経済発展が始まったのです。
増田 ホーチミンにあるデパートやショッピングモールは清潔だし近代的。センスのいい雑貨や服が手ごろな値段でたくさんあって、縫製もいい。まさに買い物天国です。
池上 街を歩くと、首都のハノイのほうがホーチミンより経済的に遅れている感じがするはずです。ベトナム戦争前は資本主義だったホーチミンと、元から社会主義だったハノイの差が今でも残っている。
増田 第二次大戦後、ベトナムは南北の分断国家となり、アメリカが資本主義である南ベトナム政府を支援し、国内の反政府勢力が社会主義の北ベトナムを支援したために起きたのがベトナム戦争です。ベトナムを理解するにはこの歴史を抜きにはできません。ですから、ホーチミンにある「戦争証跡博物館」は訪れてほしいです。
池上 戦場の真っただ中に身を置いて戦争の現実を伝えた従軍カメラマンたちの有名な写真がたくさん展示されています。それらの写真は世界に反戦運動が広がるパワーになりました。
——1970年代当時、学生だった池上さんはベトナム戦争をどう見ていたのですか?
池上 「殺すな」という文字でベトナム戦争に反対する大きな缶バッジを胸に付けて毎日登校していました。
増田 戦争証跡博物館は、正直に言って、戦争の悲惨さを目の当たりにし、気持ちが落ちる場所です。それでも行ってよかったと本当に思いました。