コロナ禍で外出が減り、人と会えない孤独やストレスを感じる人が増えています。今回は、池上彰さんと増田ユリヤさんのお2人に孤独との付き合い方を聞きました。
2人にもあった死にたくなった日
編集部(以下、——)コロナ禍で孤独を感じる人が増えています。日本人の自殺死亡率の高さもニュースになりました。
増田ユリヤさん(以下、増田) 主要先進7カ国の中では最も高いのですよね。15〜39歳の死因の1位は自殺です。
池上彰さん(以下、池上) 経済協力開発機構(OECD)加盟国の中では韓国が最も高いです。努力していい大学に行け、いい会社に入れ、それができなかったら絶望と、とてつもないストレス社会で、芸能人は何かあるとネット上で激しく叩かれる。日本以上に生きにくい社会だなあと思います。
増田 なぜ日本や韓国の自殺死亡率が高いのかについての直接的な答えではないかもしれませんが、基本的には安全で、社会的インフラが整った環境のほうが経済的な格差への不満や不安が大きくなってしまうように思います。豊かな社会だからこそ、自分が望むとおりでないことを「仕方がない」と思えないというか、「なぜ自分だけ?」という絶望感が深くなるというか…。
池上 確かに、ものすごく貧しい国や、戦争中だったり内戦中だったりする国では、自殺は少ないのですよね。日々生きるか死ぬかという瀬戸際にいると生きることに必死にならざるを得ないですから。むしろ平和な環境になって、いろいろと考える余裕ができてくると、その社会が抱える課題や自分の将来について思い詰めてしまうということはあると思います。
——コロナ禍以降、芸能界の方が自殺されるニュースも続き、毎回ショックを受けます。
増田 とても才能があって、仕事もたくさん決まっていらしたのに…と思う方ばかりで、私も本当に衝撃を受けました。真実は分かりませんが、優れた表現者ならではの高い感受性や、人前に立ち続けるプレッシャーの大きさもあったのかもしれませんね。私ですら、テレビカメラの前に立つ仕事を始めた20代の頃は、「もう死にたい」と思うくらいへこんだことが何度もありましたから。
池上 私も学生時代は自殺という言葉が頭をよぎったことがあります。私が高校、大学時代を過ごした1970年代は、学生運動が盛んで学内でストライキがたくさんあったのです。でも結局、いろんな要求が通らなかったり、仲間割れしたりして挫折し、敗北感から死を選んだ学生たちもいました。『二十歳の原点』や『青春の墓標』など、彼らの手記や手紙を元にした本を当時夢中で読みましたし、実は、私の知り合いも自殺し、とてもショックを受けました。
——どうやって乗り越えられたのですか。
池上 私の場合は、おそらく読書でしょうね。現実が厳しいとき、人にはそこから逃げる場所が必要だと思います。受け入れてくれる場所や仲間があればもちろん救いになりますし、そうでなければ読書に逃げる方法もあるんじゃないでしょうか。
私が学生時代、本当に思い詰めちゃった時期に救われたのは、堀辰雄の『風立ちぬ』という小説でした。主人公が重い病に侵された愛する婚約者とともに、生と死にひたむきに向き合う物語で、改めて生きていくってなんだろうってことを考えましたし、命って大切なものなんだと感じさせられたんです。