第3次世界大戦を防ぐための選択
——連日のつらい報道を見ながら思うのは、戦争なら人を殺しても罰せられないのか? ということです。
池上 いいえ、戦争にもルールがあります。必ず宣戦布告をし、制服を着ている兵士だけを狙う。民間人を攻撃してはいけない。捕虜を人道的に扱わなければいけないなど、まとめてジュネーブ諸条約として定められています。
増田 しかし、今回ロシアは宣戦布告をしていません。侵攻はロシア系住民を助ける平和維持活動だからと。戦禍の報道は、ウクライナ軍によるフェイクだと言っていますよね。
——国際機関がロシアの侵攻を止めることはできない?
増田 国家間の法的な紛争については、国際司法裁判所が、条約や慣習法などに対して違法性があるかを判断し、今回のような目の前で戦闘が起きている場合は、即時停止の命令を出します。ロシアに対しても3月に出されましたが、行使する直接的な手段はないのですよね。

——多数の被害が出続けているウクライナが、「降伏」しないのはなぜでしょうか。
池上 大きな「歴史の教訓」があるからなのですよね。
増田 第2次世界大戦開戦前年の1938年にドイツで開かれた「ミュンヘン会談」の教訓です。当時、ナチス・ドイツがチェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求したのです。そこにいるドイツ人居住者を保護するという名目でした。
池上 まさに、今回のロシアのウクライナ侵攻と同じ。
増田 戦争を避けたいイギリスとフランス、イタリアは、ミュンヘン会談でナチス・ドイツの要求を認めてしまった。それで満足して話が収まるだろうと。
池上 しかしその後、ナチス・ドイツの侵略行為はさらにエスカレートし、第2次世界大戦に突入してしまったのです。欧米の政治家は必ずこの歴史を学びます。同じ轍(てつ)を踏んではならないと。だから、多大な被害が出ても「降伏」をしないのです。