発売中の日経WOMAN2022年9月号では「推しのパワーは仕事に生かせる!」特集が大好評。世界各地に取材へ赴き、さまざまな人を取材してきた池上彰さんと増田ユリヤさんの2人が、忘れられない、また会いたい、みんなに知ってほしい「推し」は誰?

出会いのきっかけは、自分で切り開いてきた

編集部(以下、——) お2人にとって忘れられない人というと。

増田ユリヤさん(以下、増田) 私は、mRNAワクチンの開発者、カタリン・カリコ博士ですね。

【増田さんの「推し」】mRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ博士(1955年〜)
【増田さんの「推し」】mRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ博士(1955年〜)
東西冷戦下のハンガリーから娘のぬいぐるみに紙幣を隠し渡米。RNA研究に心血を注ぎ、数々の挫折を経験しながらも、信念を貫き「mRNAワクチン」の開発に大きく貢献。「諦めない、ブレない清廉の人です」(増田さん)

池上彰さん(以下、池上) カリコさんの本も書いていますよね。きっかけは?

増田 テレビ局のスタッフの方から、mRNAワクチンの開発に携わった女性科学者がいると聞いて、そのときに野性の勘でぜひ話を聞きたいと思ったんです。メールをするところから始まって、あちこちアタックしてリモートでの取材が実現しました。ハンガリー生まれで、水道も電気も通っていない貧しい家で育った彼女は、小さい頃から生き物の観察が大好き。高校時代に生物学の先生の提案で、科学者と手紙のやり取りをしたことで、将来は科学者になると確信したそうです。本当に好きなことを一心に続けて40年の研究を実らせた。私が教員をしていたことを知っている彼女は、「あなたも分かるでしょう、先生は大事にしなきゃいけないのよ」と。

池上 ハンガリー大使館でのレセプションが、初のリアル対面だったのでしょう。いの一番にハグされていたじゃない。

増田ユリヤさん
増田ユリヤさん

増田 感激でした。池上さんはダライ・ラマ14世から直々にチベット仏教の祝布「カター」を掛けてもらったんですよね。

【池上さんの「推し」】 チベット仏教の最高指導者 ダライ・ラマ14世(1935年〜)
【池上さんの「推し」】 チベット仏教の最高指導者 ダライ・ラマ14世(1935年〜)
1940年に即位。中国のチベット侵攻により59年インドに脱出し、亡命政権を樹立。非暴力による平和的な問題解決を世界の要人に訴え、89年にはノーベル平和賞を受賞。「知的好奇心旺盛な慈悲の人です」(池上さん)

池上 きっかけは、NHKを辞めたあと『そうだったのか! 中国』という本を書くためにチベットにも行ったことです。

増田 チベットにジャーナリストが入るのは厳しいのでは?

池上 当時、私はあくまで「リタイアード」ですから観光客として。高山病になりかけて大変でしたが、そのときの本がきっかけで、ダライ・ラマ14世が2006年に来日したときに、インタビューしませんかとテレビ局から声が掛かった。それが最初です。以降、来日のたびに対談をしたり、物理学者との対話をコーディネートしたり。

池上 彰さん
池上 彰さん

増田 物理学者とのお話を希望されたのですか?

池上 好奇心が旺盛な人で、最新の宇宙科学にもすごく関心を持っている。宇宙の始まりと仏教の考えは矛盾しないんです。そもそも仏教には天地創造という考え方がないので。仏教の本質のようなものを分かりやすく教えてくれる人で、計5回お会いしました。自分を受け入れようとしない中国共産党のトップに対しても、かわいそうな人たちだと慈悲を見せる。なんてすごい人だと思いましたね。

増田 観音菩薩の生まれ変わりとされるチベット仏教の最高指導者で、ノーベル平和賞も受賞しているのに、メディアではあまり取り上げられません。

池上 ダライ・ラマ14世を真正面から取り上げると、中国政府から嫌がらせを受けるからです。以前NHKで、教育テレビの宗教の時間にインタビューを放送したら、NHK北京支局はしばらくの間、中国で取材ができなくなりましたから。