2021年にニュースになった女性の中から、池上彰さんと増田ユリヤさんが選んだウーマン・オブ・ザ・イヤー。ニュースの背景とともにその活躍を解説してもらいました。

【池上さん】さまざまな圧力に負けない女性たちです【増田さん】信念に真っすぐな生き方を学びたいです
池上さんと増田さんが選ぶウーマン・オブ・ザ・イヤーは?

学術会議の任命拒否で学問の自由や民主主義の危機を説く

編集部(以下、──) 2022年1月号の日経WOMANは「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2022」を発表しています。池上さんと増田さんにも、「現代ニュースのキーワードLIVE」版の選定をお願いします。

池上 まず、加藤陽子さんです。

増田 日本学術会議の新会員候補に推薦された方ですね。

東京大学大学院教授・歴史学者 加藤陽子さん
東京大学大学院教授・歴史学者 加藤陽子さん
日本近現代史の優れた研究者として知られるが、日本学術会議の新会員候補に推薦され政府に任命拒否された。小林秀雄賞を受賞した『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』、『満州事変から日中戦争へ』など著書多数

池上 菅前首相による任命拒否で注目を浴びましたが、実は加藤さんは、上皇陛下が天皇のときに何度も呼ばれて、日本の近代史についてレクチャーしている人なのです。

増田 近現代史は学校の授業では時間が足りなくなって、つい駆け足になりがちです。

池上 だからこそ、大人になってからも学び続けなければいけないのですが、近代の日本史は、右派、左派など研究者の考えで捉え方が異なります。その点、加藤さんは非常にバランスがいい。小泉政権以降、政府のさまざまな役職も務めています。

── なぜ、そんな人を前首相は任命拒否したのですか?

増田 2021年4月には「拒否に至った経緯を情報公開せよ」という請求が、多くの法律家の連名で出されましたね。

池上 しかし政府は理由を一切説明していません。加藤さんが安倍政権下で施行された特定秘密保護法に反対したことが引っかかったのではないかといわれています。

 特定秘密保護法は、政府が不都合な情報を隠し、国民の知る権利を揺るがす懸念のある法律です。つまり、加藤さんをはじめ複数の研究者の任命拒否は、政府の方針とは違う意見を述べると、学術会議から外され、政府から科学研究費がもらえなくなるかもしれないよ、というメッセージとも取れるわけです。これに対して加藤さんは一貫して極めて冷静に、これは学問の自由や民主主義の危機であると説いていらっしゃる。実に優れた人だなあと思います。