多様性を認めない人が顕在化してきている
——今、なぜ自国第一主義が出てきて、支持されているんですか?
池上 ヨーロッパの場合で言うと、EECやECの頃はよかったのですが、ヨーロッパ統合を急ぎすぎたことによる反発が出るようになったのだと思います。金融政策は欧州中央銀行に取られ、その上、EUで憲法を作るなんていうことになったら、自分の国がなくなってしまうという反発。欧州北部のインテリが理想主義で何かやろうとすると、いろんなところでやっぱり支障が出てくる。
——北部のインテリ?
池上 ドイツやフランスです。特に反ドイツ感情があるのです。イタリアはドイツに占領された歴史がありますから。
増田 潜在的には自国第一主義を支持する人が、一定数はいたということですよね。
池上 増田さんが2016年のアメリカ大統領選のときに、本当はトランプ支持なんだけれどそれを言えない、「隠れトランプ」を取材していたじゃない。
増田 トランプ氏が共和党の代表候補になったあたりから風向きが変わりましたね。
池上 自国第一主義を公言してもいいという雰囲気が生まれた。

増田 翌17年にはヨーロッパの各国で選挙があり、オーストリアは極右が勝っています。フランスでは当時の国民戦線が議席を伸ばし、ドイツも極右政党のAfDが10%を超えるほどの数字を取りました。
池上 もともといた人たちの主張が顕在化したわけだよね。
増田 海外は、宗教的なバックグラウンドによる影響も大きいですよね。ヨーロッパの場合、15年にシリア難民が流入したことも極右が台頭する契機になったと思います。難民で渡ってこられるくらいに体力がある人たちですから、なかには問題行動を起こす人もいた。そういうなかで生まれる反イスラム、反移民感情が、極右の主張と合ったのでしょう。
池上 保守的な人は、異質なものに対する違和感があるわけですよね。日本だって、不法移民にものすごく厳しい。在留許可が消えた途端に、収容所に押し込められるわけですから。収容所といっても日本の拘置所みたいなところです。スリランカ人女性のウィシュマさんは、収容所で亡くなりました。
増田 多様性を認めないという意味では、LGBTQは受け入れない、夫婦別姓を認めたら家族制度が崩壊するとか、事実婚も婚外子もダメという人が日本にも少なからずいます。
池上 特に地方に行くと伝統的な家族制度が大切という人は多いですね。家父長制が色濃い。鹿児島みたいにこれまで女性の国会議員が当選したことがない県もあるわけです。なので、よくいわれる「極右」は、日本でいうとちょっと保守的な人ぐらいなんだよね。むしろ国際的なスタンダードの見方からすると、日本の自民党が極右に入るのかもしれない。
増田 逆にヨーロッパでは当たり前の政策が、アメリカでは極左と見られたりしますよね。
池上 そうですね。ヨーロッパの多くの国が、国立大学の授業料無料は当たり前ですし、社会保障の充実や国民皆保険も、多くの国でやっていることですが、アメリカでは極左の位置づけになってしまう。