各界で先進的な活動をしている第一人者と、一歩先の未来を考える新連載「キーパーソン、視線の先」。第1回は、地方経済・人口問題に詳しい研究者の藻谷浩介さん。日本の市町村すべてを訪れた豊かな経験をベースに、「過去のデータを読めば近未来が見えてくる」と説得力ある分析を展開する。(上)では、東京と地方の人口増減の実態、女性就業率と出生率の関係など、専門家も見誤る問題を指摘。コロナ禍を契機に進む「東京離れ」の真相を、日経xwoman編集委員の羽生祥子が聞いた。

藻谷浩介/日本総合研究所 主席研究員、日本政策投資銀行 地域企画部 特任顧問
もたに・こうすけ/1964年、山口県生まれ。88年東京大学法学部卒、同年日本開発銀行(現、日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年ごろから地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。平成の大合併前の約3200市町村のすべて、海外114カ国を自費で訪問した経験を持つ。監修本に『進化する里山資本主義』(ジャパンタイムズ出版)など。

日経xwoman編集委員・羽生祥子(以下、――) 今日のテーマは、「東京一極集中からの脱皮」です。コロナ禍を契機にテレワークが普及し、働く場所や暮らす地域を新たな価値観で選ぶ人が出てきました。総務省の発表では2020年7月から8カ月連続で転出超過となり、「脱・東京」を実行に移す人は増加中です。このトレンドがいつまで続くのか、日本の都市と地方の関係の一歩先を、藻谷さんはどう見ていますか?

藻谷浩介さん(以下、藻谷) トレンドというのは、皆の目についた部分です。ですが本当に大きな流れは、誰も見ていないところで静かに起きています。コロナ禍の始まる前の5年間、2015年の正月から2020年の正月に、東京都の人口は54万人増えました。ではそのうち、15〜44歳は何人増えているでしょうか? 住民票で確認すると、8万人減っているのです。そして、増えたうち半分以上の30万人が70歳以上の高齢者なんですね。

2015年からの5年間、東京都の15~44歳人口は8万人減少した( 住民票基準、居住外国人含む)。出典/内閣府特命担当大臣(経済財政政策)主宰懇談会「選択する未来 2.0」。以下、図表はすべて同資料出典。
2015年からの5年間、東京都の15~44歳人口は8万人減少した( 住民票基準、居住外国人含む)。出典/内閣府特命担当大臣(経済財政政策)主宰懇談会「選択する未来 2.0」。以下、図表はすべて同資料出典。

―― 一見、東京には「人口増加、一人勝ち」というイメージがありますが、実は若手現役世代は減り、同時に高齢者が急増しているというのが真実なんですね。お年寄りは地方にこそ増えていると錯覚していました。

藻谷 今の日本では、大都市圏ほど高齢者が急増し、田舎の過疎地では減っています。世間のイメージと事実がまったく逆になっていますね。また東京は出生率が極端に低いので、新たな上京者だけでは若者の減少が埋められない。つまり、「東京という場所は生態系が壊れている」のです。

「減る15~44歳/増える70歳以上」
「減る15~44歳/増える70歳以上」

―― 生態系が壊れているというのは、結婚しない人が増えて、子どもが減っているということですか?

藻谷 東京の婚姻率は日本一です。結婚して仲良くしているのに、子どもを持てない人が多いんですね。人間という生き物の生態系としては異常な、持続可能性がない状態です。

 そう聞くと、「女性が働いて子どもを産まなくなったからだ」と思う人が多いでしょう。ですがこれまた事実は逆で、東京都在住の若い女性は、地方の県に比べて、働いていない比率が高いのです。共働きで子育てするのが、保育所などの足りない東京では難しいんです。

「若い女性が働くから出生率が下がる」も間違い

―― 出生率が低下して子どもの数が減ったのは、働く女性が増えて社会進出を果たしたからだ、というイメージがあります。ですが国勢調査の数字では、女性が働いても出生率が低くなるというわけではありません。むしろ就業率と出生率は比例する傾向にありますね。