―― 「保育の質を高める」と合意されたはずの約束が果たされていないのですね。その間、消費増税で得た財源から、幼児教育と保育の無償化に年間約8000億円が使われたとされています。駒崎さんはこの財源の使途についてどう思いますか?
駒崎 僕だけでなく、保育の質を高める議論をしてきた仲間たちは皆、まさにその点について怒っているわけです。約3000億円を投入すれば、この保育士配置基準の見直しが実行できるはずなのですから、なぜその約束をまずは果たさないのだと。
家庭での児童虐待死、「1週間に1人以上」
―― 国の財源や保育現場の制度について議論してきましたが、「虐待」というのは家庭内でも起こり得ることです。駒崎さん、先ほど「言葉遣いや態度など、育児の現場ではグラデーションで虐待レベルになってしまうこともあり得る」とのことでした。実際に家庭内での虐待については、どんな傾向ですか?
駒崎 現状、日本の児童虐待死の数は、年間77人(20年度)なので「1週間に1人以上、虐待死がある」ということになりますね。虐待死が特に増えているということではありませんが、児童虐待相談対応件数は21年度で20万件を超え、過去最高数に達しました。
―― 虐待数の増加については、私も子ども2人を育てる母親として注視していたことです。ただ、数が増えているという背景の1つには、社会的に虐待への意識や監視が高まり、報告数自体が増えている側面もありますね。
駒崎 その通りです。虐待の内容としては、暴言なども含む「心理的虐待」が全体の6割を占めています。
―― 子育ての最中についエスカレートしてしまう暴言や身体的接触などは、どの保護者にも覚えがあるんじゃないかな……。実は私、この場で勇気を持って公開しますけれど、子どもたちが3~6歳の頃、物を投げたり背中をたたいたりしてしまう時期がありました。投げる直前に、少しでも柔らかい物をと、数秒でクッションを探して投げたことが忘れられません。ちょうど共働きのママパパを応援するDUALを創刊してほとんど眠れていなかった頃です。理性が保てている自分と、抑えきれない衝動と、両方の気持ちに引き裂かれるような気持ちでした。
駒崎 すごく分かりますよ、子育てをしている最中は親も仕事で忙しい時期ですし、共働きのママやパパが寝不足で精神状態が普通でなくなることなんていくらだってあります。
―― もう一つ開示しますと(苦笑)、長男が0歳児のときに保健師さんが家庭調査をしにきてくれました。ひどいアレルギーだったのでほぼ寝ていない私に「昨夜は何回泣きましたか?」と聞いてくれて。瞬間的に「3回です」と私。すると「あら、0歳児にしては少ないじゃない!」と褒めてもらったとき、「あ、聞かれたのは赤ちゃんの夜泣きであって、私の泣いた回数じゃないんだ……」とハッと我に返りました。いつだってバランスが崩れるものですね、子育て中の親は。